昔の話 11
父ちゃんの寄宿舎の部屋は、寄宿棟南の一郭にある。部屋の大きさは、一人で住むには十分な大きさで、しかも二部屋が用意されている。下級兵士用の部屋を二個つなげただけだけれども、十分の広さが保たれている。何しろこの部屋一個で、がたいの良い兵士が二人住んでいるのだから、其れと比べれば条件が良い。
あたしは何時ものように、父ちゃんの仕事部屋に通された。北側の壁には、作り付けの棚が有る。因みに此れは、父ちゃんが自分で作った棚である。その棚には、弓を作るための道具と完成していない弓が載せられているた。
南側には、木戸で閉じられている大きな窓があった。因みに隣の部屋は、簡易なベッドルームになっている。其処には、ただ寝るためだけのベットが置かれている。なんと天蓋付である。ただ、残念なことにはシーツの下はよく干された、藁屑が敷き詰められた物だった。平民なら此れでも上等な方である。
因みにあたしの使用人用の寝床には、綿の布団が最初から用意されていた。ふかふかしていて気持ちが良いから、そのまま使わせて貰っているけど。平民の使用人の扱いとしては破格だとおもう。
このことは、他の使用人仲間には言えない秘密にしている。だって、間違いなく虐められる理由になるじゃ無い。他の子達は、父ちゃんと同じ藁屑の寝床なのだから。因みに、ドリーさんも綿の布団に寝ているみたいだ。彼女は、元々貴族の御令嬢だったから、当然の事なのだけれど。
因みに兵隊さんの中には、領都に家を持っている人たちがいるけど。その辺りは懐事情によってまちまちみたい。集合住宅に住んでいるような人たちは、やはり藁の寝床に寝ているらしかった。
やっぱりこの世界は格差社会なんだろうな。貴族と平民の生活のこの大きな落差は、何とかならないのだろうか。いずれこの差に気が付いた民衆が、革命を起こすかも知れない。今の処はその兆しすら見えないけれどね。
父ちゃんの部屋は、隊長さんの部屋には見えないよね。どちらかと言えば職人の仕事部屋だよね。部屋の部屋の東側に押しつけられたテーブルを、引きずり出して。そのテーブルの上に置かれた、書類の束を隠すように、他の書類の上に移動させた。
この部屋、何時掃除したのだろうか。なんかあたしは、その事が気になりだした。手が空いたら、掃除しに来なければならないだろう。たぶん、伯爵様がお帰りになるまでは、あたしの身体は空かない取ろうな。
あたしはそっと溜息を付いた。いくら隊長様とは言っても、そういった雑用を引き受けてくれる人間を雇うことは出来ない。本人がやる気になれば、どうと言うことでも無いのだろうけれど。それよりは弓を作る方が、大事なのだろう。
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