昔の話 8
その後のメイドとしての業務は、何となく居心地の悪い雰囲気の中、さらっと終わらせられた。皆気を遣っているのか、デニム伯爵の発言にまつわる話題はなかった。それどころか、あたしに声を掛けてくる使用人が居なかった。
あの五月蠅いメイド長のサンドラさんですら、一言も声を掛けてこない。微妙な顔で視線を向けて来ないようにしているのが、丸わかりだった。侍女のドリーさんだけは、そんな中でニコニコしながら話しかけてくれたけど。伯爵様の発言に関しては何も言ってこなかった。
あの時現場にいたし、何か言ってくるかと想ったんだけど。彼女はただニコニコしているだけだった。この人、最初からあたしの出生について知っていたんじゃないかなと持っている。全く驚いた様子がなかったから。
そして、執事リントンさんも知っていたんじゃないかと思う。たぶんこの人は、間違いなく伯爵家で側仕えをしていたはずだから。この人も何処かの下級貴族の出だったはずで、この家の内務について生き字引みたいになっている。だから、その時の事情を知っている可能性が高い。後で聞いてみようと想うのだけれど、何故かあたしの側に寄ってこなかった。
「其れではお嬢様。少しの間お暇を頂きます」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が、晩餐を終えて寝るための準備を逐えたところで、あたしは声を掛けた。少なくとも此れからは、メイドを必要とするような事は無いはずで。定期的に他のメイドが来るから、彼女は不自由しないだろう。
因みに、彼女もあれ以来伯爵様の言葉に対するリアクションは無かった。どうやら、奥様に何か言い含められているのだろう。あたしとしては、助かっちゃうのだけれど。なんかモヤモヤする事でもある。
だって、絶対ショックだと想う。何しろ目の前に、死んでいるはずの姉妹が居るのだから。しかも今まで知らなかったって、だいぶショックよね。ぐれなきゃ良いけどね。
「ねえ、リコ。何処かへ行っちゃわないでね」
「大丈夫。私はどこにも行きはしませんから」
あたしは御嬢様に、何時ものように挨拶をして、自室の扉を開けた。
あたしの部屋は、御嬢様の部屋に直接出入りできるように、御嬢様の部屋とつながっている。万が一、御嬢様の身に何かあったら、直ぐにでも飛び込む事が出来るようになっている。勿論メイドとしての、お仕事をする上で便利に出来ても居るのだ。
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