昔の話 6
「君はそんなこと考える必要ないよ。だって、弓術はメイドに必要な技術じゃないだろ。まあ、皆から金を巻き上げるのに入るだろうけれど。たいした実入りにもならないし。それよりは、メイドとしての技術を磨く方が良いんじゃないかな」
レイが真面な事を意見してきた。真面目な子だから解るのだけれど、あたしにも事情という物があるのだ。そんな事知らないで言ってくる。前世のあたしなら、間違いなく怒り出す案件である。内容には、あたしが腕試し遣っていることに対する、咎めるニュアンスが混じっている様に聞こえてしまったのだ。
一応あたしは、メイドではあるのだけれど。お嬢様の護衛も兼ねている。弓術は護衛としては、必要の無い技術に成るのかも知れないけれど。それでも、使わなければ錆付居てしまう。其れはもったいない事だと思う。
実さい、父ちゃんは見て見ぬ振りしてくれている。錆付かない程度には、弓を撃っておけとも言ってくれてるしね。格闘技の訓練で、あたしの顔を狙って右ストレートをお見舞いしてきた人には言われたくは無かったかな。
本当に、あれがまともに当らなくて良かった。あれは腰が入ってたから、まともに受けたらダウンしていたかも知れない。あたしらのやっている格闘技は、前世だとレスリング主体の総合格闘技に近い。たぶん、レイの其れはボクシングの方が近いのかも知れない。
あの時は女の子の顔を狙うなんて、とんでもないことだなと思った。あの後、父ちゃんにレイがこっぴどい目に遭っていたのは、あたし的には楽しい思い出である。
後で聞いた話だと、あまりにも追い詰められたので、つい腕が出てしまったらしい。やはり女の子に負けたくは無かったみたいである。
「でも、あたしは普通のメイドじゃないから。身につけておかなきゃ成らない事が一杯在るのよ。貴方も人には言えない事情があるでしょう。あたしにも在ったりするから」
「御免。迂闊だったよ」
レイはあたしの表情を読んだみたいで。直ぐ謝ってきた。そのあたりの感受性は高いみたい。王子様そのあたりハイスペックなのかも知れない。十五歳にしては対した物である。
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