昔の話 3
あたしのことを目の前に、金髪碧眼の優しげな顔があった。此れは中々の美形である。だいぶゲームのスチルよりは若くて可愛らしい。あと二年もすれば、凜々しい若武者みたいないい男になるだろう。そりゃそうだよね。彼は攻略対象だもの、美形なのは当然よね。
ゲームでは、彼はマリア・ド・デニム伯爵令嬢の護衛をしていた。たしか、私兵の中で相当強かったらしい。そして、亡国の王族だったはずである。いわゆる最後の生き残り的な人物と言う設定だった。
あたしは攻略しなかったから、どんな事情かは知らない。何しろ、全部の攻略対象を落としてから、ようやくルートが開く上に、マリア・ド・デニム伯爵令嬢のチェックが厳しかったのである。途中まで挑戦して、放り投げて終わりである。
それからしばらくして、悪い男と付き合いだしてからは不良の道まっしぐらだった。あんな夢みたいな恋愛ではなく、色んな意味での欲の付き合い。其処には打算と性欲しかない恋愛だった。あれは恋愛じゃないな。一方的に貢ぐ関係。
あのまま事故に遭わなければ、あたしは夜の街で春を売っていたかも知れない。親から愛情を受けた実感がないまま、碌でなしの男に捕まった。それから転落するのは速かった。
「御嬢。一緒に御屋敷まで送ります」
惚れ惚れするほど綺麗な顔が、あたしの前で敬礼を為ていた。ぼーっと考え事をしていたあたしは、慌てて敬礼を帰す。ここに居る以上、あたしは護衛として扱われる。さっきの腕試しも、訓練の一環と見なされる。此れも護衛件メイドの仕事なのだ。
因みに、腕試し勝負で兵士の中で、一番勝った者があたしを送る名誉を受けることが出来る。いつの間にか、そう言う取り決めが小隊の中で、決められていた。
だから今回は、なんと亡国の王子様が護衛に付いてくれる。ここから、屋敷はそんなに遠くないから、全く危険は無いのだけれど。折角勝利為ても、手にできるのは僅かばかりの銅貨。因みにこの金は、後で皆の酒代に化ける確率が高い。
誰が言ったのか、あたしのことを送る権利が副賞に付くことになった。護衛は入らないのだけれど。何しろ、まだあたりは明るい。それに、ハーケンの娘に何か為よう物なら、とんでもない目に遭うことは確定しているのだから。骨が折れること間違いなし。此れは比喩ではなかったりする。




