昔の話
「御前ら訓練遣るぞ」
と、父ちゃんが怒鳴る。
「おう」
小隊の連中が、今までが嘘みたいにきびきびと動き出す。あくまでもあたしとの其れは、訓練の前のウオーミングアップに過ぎない。きちんと訓練していたからと言って、生き残れるとは限らないのが実戦だけど。遣っておかないよりは、生き残れる可能性が少しは高くなるそうだ。昔、賢者様が言ってた。
戦争になら無い事が大事だとは思うけれど。此ればかりは、乙女ゲーム桜色の君に・・・のエピソードに在る以上かなり確率が高いのだろう。あたしが、悪役令嬢にならない以上。簡単にはフラグが立つことはないんじゃないだろうか。そうは思っても、何となく強制力が働いてきているような感じがするんだよね。
何とかして戦争のフラグだけは、折っちまおうとは思っている。出来るかどうかは判んないけどね。
兵隊さんの訓練が、何時も道理の流れで進められようとしている。父ちゃんの隊は剛弓隊って事になっている。半年前に射程距離の長さが知られたので、奥様がその弓の有用性に着目。取りあえず小隊を作る事にしたみたいなんだよね。ただ、この弓にも欠点があって。使えるように成るのに、かなりの習熟が必要な上に、今の処父ちゃんしか作れない。量産が効かないんだ。
あたしは皆が汗を流しているのを眺めていると、父ちゃんが声を掛けてきた。その声は何時もより低くて嗄れている様だった。
「リコ。御前はデニム伯爵の娘だって聞いたのか」
「聞いたよ。だからどうだって言うんだい」
珍しいことに、父ちゃんはあたしの背中にそっと触れてくる。まるで、壊れ物に触れるように。
「信じたのか」
「真逆。あたしは父ちゃんと母ちゃんの子供だろう」
あたしは信じたいことを口に為た。勿論、あたしは前世の記憶持ちだから。その時の事情を知っている。でも、今までは決してその事を話そうとしなかった。だって、あたしは二人の子供だから。村の狩人ハーケン夫婦の娘だから。
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