奥様のストレス発散 11
アリス・ド・デニム伯爵夫人は、左腕を庇いながら立ち上がった。結構手加減してくれていたのだけれど。それでも、腕の筋を痛める羽目になって
しまった。
「奥様大丈夫ですか?」
と、ヘクター・リントンが寄ってきて声を掛けてくれる。心配そうに左腕に触れてくる。
左腕の痛みはそれほどでも無い。しばらく湿布薬のお世話になるかも知れないけれど。鍛錬上の事故としては軽い方で在る。この程度なら医者を呼ぶほどでは無い。
「心配は要らないわ。彼奴に為ては優しかったから、随分丸くなった物ね」
娘の事を出したのは、あわよくば認めさせたかったからで在る。ナーラダのリコが、十三年前に捨てた赤ちゃんだと認めさせる事が出来れば、遣りようによっては取り戻せるかも知れないと、淡い望みを持ってしまったが為に。少しばかり、彼奴を怒らせてしまったのかも知れない。
それでも、ハーケンの顔面を殴ることが出来て、アリスは気分がすっきりしている。勝てなかったのは残念ではあるけれど。暴力の専門家相手に為て、其れなりにやれた事が嬉しかった。
例え、かなり手加減されていたとしても。少しは本気にさせたみたいだから、十分貴族としての義務を果たせる力があると言うことだから、誇らしい事ではある。
ここまですっきりしていれば、デイモンとの話し合いで激高しなくて済むかも知れない。彼との話し合いをきちんとしなければ、また何を言い出すか解った者では無いのだから。
よんでくれてありがとう。




