ランプ亭
大門を潜ると、広間になっている。石畳の所々に大きな水たまりが出来ている。上手く排水できていないのだろう。
さすがにこれだけの大雨になると、ごまかしが利かないのだろう。
広間の先には、あまり見通しの良くない道が続いている。戦争を想定した街の作り方は住む人間にとっては、不便この上ない。あたしもこの街には来たことは、あったのだけれど、迷うこと無く目的地にたどり着ける自信は無い。
いつも泊まっているランプ亭までは、それほど掛からずに迎える。この宿が父ちゃんの定宿になっている。それほど大きな宿では無かったが、この宿の主人が父ちゃんの昔からの知り合いなので、色々無理を聞いてくれる。嵐のまっただ中の、遅い時間にもかかわらず泊めてくれる可能性があった。
あたしとしても、安心して寝ることの出来る場所の確保は重要だと思う。心配なのは、この嵐で足止めになった商人なんかが、部屋を独占していることだけだ。その時は、雑魚寝でも良いから泊めさせて貰おうかと思う。
いくら何でも、デニム伯爵家の屋敷に今から押しかけることは憚られる。天気が良くなってから、伺った方が良いに違いない。とにかくお湯で身体を清めたい。少しでも良いから暖まりたかった。お腹もすいて、腹の虫だって合唱を始めかねない。宿に何かおいしい物があれば良いのだけれど、この時間じゃ固いパンと残り物のスープだけかな。
更に激しくなってきた雨のなか、ようやくランプ亭にたどり着いた。宿は既に明かりを落としてしまっており。泊まれるか心配になったけれど、ランプ亭の主人ジェフリーさんは快く部屋を用意してくれた。勿論銀貨五枚を宿代として払うことになった。部屋の割にはお高いことは言うまでも無い。
部屋はあたし父ちゃんの二人で使うことになった。基本的に風呂は無いので、湯を用意して貰って身体を洗ってから、わらのベッドに入ることになる。あたしが身体を洗っている間に、下の食堂から何か食べる物を取りに行ってくれている。
出来れば温かい食べ物がほしい。少しぐらいはお酒でも良いかもしれない。どうせ水で薄めたワインぐらいしか無いのだから、未成年でも酔っ払ったりしない。
とにかく暖まりたかった。夏でも雨に濡れれば、長い時間には体温を奪われる。流石に風邪を引いたりはしないだろうが、決して気分の良い物ではなかった。




