奥様のストレス発散
アリス・ド・デニム伯爵夫人は、黒い胴着にズボンという出で立ちで、兵士達の練成場に遣ってきた。彼女にしては珍しい事だった。普段ならこの時間から、この場所にやってくる事は無い。兎に角救いがたいほど、愚かな夫の顔を見ていたくなかったのである。
確かに彼に手紙を書いたのは、アリスなのだけれど。真逆この時期にわざわざ遣ってきて、皆の前で秘密の暴露をしてしまうなんて信じられなかった。あの場所には、全ての使用人が居たわけでは無いけれど。秘密を守れる者ばかりでは無かったのである。
この国には、双子に対して嫌な伝承がある。双子は獣の生まれ変わりだと言う愚かな物なのだけれど。彼女自身が、双子を産むまではその事を信じていたので、何も言えない。実際、父親が双子の片割れを捨てさせたと聞いたときには、内心ホッとしながら、捨てさせた父親をなじっていた。今考えれば父親に甘えていたのである。
父が亡くなり、デニム伯爵家の直系の者として、夫に名義上の跡継ぎと成って貰った。彼女には妹しか居なかったので、デニム家の跡継ぎとなる者が居なかった。デイモンを養子としておけば良かったのだけれど、あの男に完全に実験を渡したくは無かったのである。
デニム家の領地は隣国と接している。彼の国との間には、条約を締結されていない上に、デイロウ城を抜ければ、王都まで一直線に進撃できる。地政学的に重要な領地なのである。だから、顔が良いだけの男に任せる事が出来なかった。
あの男が他で作った子供を、デニム家の跡継ぎとするように言ってきている事も気にくわない点である。そうなると完全に、デニム家の直径の血筋が途絶えてしまう。側だけがデニム家ではあるけれど、中身がケインズ伯爵家に成ってしまうのは気に入らなかった。自分達は安全なところに居て、ちょっかいを出しては旨い汁を吸おうとする連中にはうんざりなのだ。
男の子が生まれてくれていれば、こんな事で悩まなくても良いのに。心の中で、何度も呟きながら、私兵達の鍛錬する中に足を進めて行く。彼女に気付いた者から敬礼を受ける。
アリス・ド・デニム伯爵夫人は兵隊式の敬礼で返す。その姿は、頭の固い貴族達にははしたないと言われるに違いない。そのようなことは気にもならないアリスだった。ここは、彼女こそが最高司令官なのだから。
毎日暑いですね。皆さん熱中症には気を付けましょう。
今日はコロナのワクチン接種の日です。明日熱が出なければ良いなと思っています。




