マリアの部屋にて 5
「強がらなくても良いのに」
マリアが呟いている。
「たぶん御母様の仰った事は、本当の事だと思います。だって、御母様はいい加減な事を言う方ではありませんから。当時を知るものは、使用人の中にも居るのだから。聞けば直ぐに解ることですもの。貴方が私の双子の姉妹だって知ることが出来ますわ」
「たぶん其れは難しいと思うよ。何しろ今までその秘密を隠しおおせてきたんだからさ。其れに、あたしが似ている事は解っているだろうけれど。奥様が十三年前に双子を無事出産したとは思っていないんじゃ無いかな」
何だか話している内に、地が顔を出してくる。行けない行けない。何となく知っていそうな人間の名前は挙げられる気がするのだけど。其れより父ちゃんに聞いた方が早いような気がする。話してくれるかは解らないけれど。
あたしには黙りを決め込んだ、父ちゃんの顔が見えるような気がした。其れで無くても無口な人なのだ。話したくない事だろうから、決して話そうとはしないだろうな。認めたら、きっと父ちゃんはあたしを取られると思っている。きっと奥様が何度確かめようとしても、あたしが捨てた子供だって認めなかったに違いない。だから、奥様は黙って居たのだろう。もしかすると、流石の奥様もどう言ったら良いのか解らなかったんだろうな。
あたしが奥様の立場だったら、どう言って説明したら良いのか解らない。結局、奥様は事実を包み隠さず言うしか出来なかった。その事は知っていた事だから、聞いたからと言ってショックを受けるような物では無かった。
でも、奥様の方が葛藤があったように感じられる。奥様の方が心の傷になっているのかも知れない。自分が命がけで産んだ子供を、実の父親に捨てられたのだから、その時はきっと嘆き悲しんでくれたのだろう。そうで無いと嫌だな。
だから、初めて会った時に嬉しそうにしていたのだろう。
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