伯爵夫人の告白 10
「君は彼女を自分の娘にしたいのかい。本当に実子だと解らないのにも関わらず。君の気持ちだけで、そんな事が許される訳無いだろう」
デイモン・デニム伯爵が、ニヤニヤしながら奥様に対して言った。なんかこの人嫌い。綺麗な顔しているのだけれど、中身は駄目な人なのでは無いだろうか。
あたしは前世の親父を思い出した。顔の造作は全く似ていないけれど、どことなく意地の悪そうな処が似ている。うん、嫌いだな。
「この子が私の子供だと言う事は、間違いないと思っていますわ。でも、今の処ハーケンの承諾を得られない以上、取り戻すことは出来ないでしょうね。貴方に言われなくとも、その事は解っておりますわ。せめて、二人には姉妹だと思っていて欲しいだけですわ。だいたい、貴方が余計な事を言わなければ、折を見て話すつもりでした」
奥様が、デイモン・デニム伯爵を睨みながら言った。かなり怒って居るみたいである。あたし達が退席した後が怖いかも知れない。奥様は意外だけれど、格闘技も其れなりに強かったりする。嵐の後の鼠退治で、特殊部隊を指揮している姿を覚えている。彼女は、ただの御婦人では無いみたいだった。
あたしの見立てでは、デイモン・デニム伯爵は其れなりには鍛えてはいるけれど。実戦は経験が無いように見える。兵隊さん達のなかだと、新兵さん並の強さかも知れない。貴族は本人が戦場に立とうと決断しなければ、そういった事を為なくて済む立場らしいけれど。命令一つで、兵隊さんを使う事が出来るしね。
「二人とも、こんな話を聞かされて嫌な気持ちになったと思いますわ。でも、このことは本当にあった事ですの。俄には信じられない事でしょうけれど、此れは本当の事ですの。今の処、貴方達の立場を変える積リはありませんのよ。だから、二人ともその事を心の中に留めて置いてくださいませ」
と、奥様は深々と頭を下げてくれた。貴族の御婦人のありようとしては、滅多に見られない頭の下げ方だった。




