嵐の中 2
領都の城壁が見えてくる。この城壁はそれほど強固な物ではない。今のあたしでも、それほど苦労せずに登れそうな気がする。作りが雑なのである。鉄で所々を補強された、大門がしまっている。この天候では、閉鎖されていても仕方が無いかも知れないが、外に閉め出されては困ってしまう。騎士様があたしらのことを言ってくれているとは思うけど、其れは甘かったかも知れない。
前世の時代の人間でも、ロッククライムが出来れば楽勝じゃ無いかな。父ちゃんは荷馬車を止めて、雨や風の音にかき消されないように、大声を張り上げる。だいぶ雨具の中に雨が浸透してきて、下着まで濡れてきているので、早いところ宿に入って休みたい。お風呂が無いのは判っているけど、せめてお湯で身体を拭きたいと思っては贅沢だろうか。本当に寒くなってきた。しかも腹が空いても来ている。
門の脇の小窓が開き、男の顔が覗く。門に詰め居ている兵士であろう。この雨のなか、快適な部屋の中から、出なければいけないので、かなり機嫌が悪そうである。
所詮は程度の低い兵士である。門番などは比較的重要な職務では無いから、大して訓練をせずにいられるのだろう。本当はそうじゃないけどね。結構重要だけれど、ここは国境線ではないし、普段なら平民の出入りはチェックされることも無い。
嵐で扉を閉めてしまっていては、開けるのにも手間が掛かる。この大きな門を開くだけで、四人の人間の力が必要になるから、大変なのだろう。
「既に扉は閉められて知る。街に入るのは、嵐が収まってからでも良かろう」
「そこをなんとかお願いします。俺たちはデニム伯爵夫人に館で働くように言われて、やって来たんですよ」
父ちゃんは、似合わない愛想笑いを浮かべて、小窓の兵士の所まで行き。懐から伯爵夫人から預かった、書類を取り出して見せた上、銀貨四枚を相手の男に渡す。
「皆さんで、軽く一杯でも飲んでください」
「判った。其処で待っていろ」
「仕事だ。扉を開けてやれ」
男の怒鳴り声が聞こえる。
「ずいぶんと質も落ちた物だな。俺の氏衆生の質問すらなしか」
父ちゃんは切れ帰ったようにつぶやく。
「この分だと、お嬢様は苦労しているだろうな」