伯爵夫人の告白 9
「そうね。リコはどういう事なのか解らないわね。貴方は、ハーケン殿から話を聞いていなかったわね。マリアにも知って貰わなければいけないわね」
「……」
マリアがテーブルを見詰めながら小さく頷いた。
「双子のことを獣腹とする考え方が、今も残っています。その事は、貴方も知っていると思うのだけれど。其れが御爺様の時代は、其れが常識になっていたの。だから、双子として生まれた貴方達の内、一人を御爺様は生まれなかった事にしたのです」
奥様が淡々と話し始めた。あたしは知っていた事なので、別に驚くようなことでも無い。
あたしの隣に座っているマリアにとって、青天の霹靂だったらしい。意味間違っていないかな。
驚いた表情のままで、マリアがあたしを見詰めてくる。それはそうだよね。
前世を知らなかったら、あたしだってビックリだからねぇ。だって本当なら、人知れず獣の餌になっていたはずだからである。命令違反を為た父ちゃんに感謝。父ちゃんは、一応あたしを森の奥に捨てる事は捨てた。少し経ってから、森に戻って拾ってくれたのだ。
あたしが捨子だった事は、誰にも言われなかった。つまり、あたしはその事を知らなかった事になっている。辻褄を合わせなければ行けないかな。とは言っても、あたしにそんな演技力がある訳が無い。あまり驚いたような表情を作れなかった。
「その可能性があるのかも知れないけれど。あたしは父ちゃんと母ちゃんの子供だから」
「信じられないかも知れないけれど。間違いなく貴方は私の子ですわ。全ての状況証拠がそう告げておりますのよ」
奥様が切なそうな表情で、あたしに対して言ってくる。彼女の栗色の瞳が涙で潤んでいる。どことなく泣いた時のマリアに似ているように感じる。ま、あたしにも似ているって事かな。
「で、此れからどうするって言うんだい」
デイモン・デニム伯爵が、皮肉な笑いを浮かべて言った。因みにそれとなく、いつでも逃げられるように腰を浮かべている。蹴られることを想定しているのだろう。
お疲れ様です。しみじみ暑くなりましたね。




