伯爵夫人の告白 7
「貴方に会ったときから、私は私の子だと確信しておりましたわ。言ってみれば女の勘ですけれど。そして、一緒にいた者がウエルテス・ハーケンだったことが決め手に成りました。彼の者こそが、御父様に貴方を秘密裏に捨てるように命じられた人間だったからです」
その事は、前世の記憶があるあたしには別に驚く事じゃなかった。その頃、父ちゃんは大事な宝物を失ったばかりだったのを知っている。今のこの世界では、赤ん坊がちゃんと大きくなるのはかなりの幸運が必要だった。何しろ真面なお医者様が、多くは無かったから。当時領都でも名を知られているお医者様は、アリス・ド・デニム伯爵夫人の出産に掛かりきりになっていた。
だから、産み月になっていた母ちゃんを診てくれるお医者様がいなかった。その時面倒を見てくれたのは、近所のおばちゃん達だったらしい。何とか母ちゃんの命だけは助けることが出来たものの、お腹にいた赤ちゃんは生まれてくる事が出来なかった。
その時のショックが元で、母ちゃんは心に大きなダメージを受けてしまった。自分の子供を失った事を忘れてしまったらしい。ゲームの人物紹介のなかで、あたしは読んだ記憶がある。その時は、何故優秀な兵士が命令を違えて、森から連れ帰ったのか気にも留めなかった。そんな設定の都合だと思っていたのである。
母ちゃんがいなくなって、あたしは前世の記憶を取り戻した。今の現実が、乙女ゲームのなかで語られている。そして、その破滅のフラグは国を失ってしまう、恐ろしい戦争につながっていた。
敵国の先兵を引き込むのは、あたしが成り済ましたマリア・ド・デニム伯爵令嬢だった。飛んでもな設定。国を滅ぼす悪役令嬢。個人的な破滅どころでは無かった。
奥様が話してくれているその当時の事情は、あたしの記憶している、乙女ゲームさくらいろの君に……のシナリオそのままだった。
「其れは御前の思い込みだろう。確かに二人は似ているけれど、それだけでは失われた双子の片割れだとは言い切れないと思うがね」
デイモン・デニム伯爵が、そんな事を言っていた。何となくこの人は、あたしのことを娘にしたくないのだろう。ゲームの中では、この人はあたしの味方だったはずなのに。今は異なる立場で、物事を言ってくる。
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