伯爵夫人の告白 5
「本当は今、貴方達にこのことを話そうとは思っておりませんでした。出来れば、もう少し貴方に好かれてから話そうと考えておりました」
奥様の瞳が涙に濡れている。本気で泣いているみたい。
あたしは急いで視線をそらす。一寸いたたまれない気持ちになってきた。彼女の表情に嘘がない事が判るから。たぶん今言っている事は本当の事なのだろう。
「このまま私の側に置いておきたかった。母親として名乗れなくても良かった。貴方の姿を側で見ていることが出来るだけでも良かったのです。もしかすると、もう少し貴方が大きくなったら、貴族としての立場を理解できるようになるかも知れない。でも、貴方はまだ13歳。今話されても、困ってしまうかも知れませんね」
その言葉のなかに、実に貴族らしいずるさがあった。あたしもその気持ちは解る。出来ればこんな事を告白したくは無かったのだろう。其れが予定外に、旦那様がやって来た。その不用意な言葉によって、こうして過去の事を話さなければいけなくなった。其れは仕方が無い事だと思う。
あたしの事を旦那に言わないように、釘を刺しておかなかったのだろうか。奥様にしては迂闊というしかないだろう。
「其れは判るけど」
思わずあたしの口から、言葉が漏れた。前世のあたしなら、絶対口に為ない言葉だ。
「私は解りかねますわ。どうしてリコがあたしの姉妹って解るのでしょうか?」
「そうだよな。解らないよな」
デイモン・デニム伯爵が、奥様の隣で頷いている。この男は何を考えているのだろう。あたしと血がつながっているのが、何だか残念な気がする。
ドンと何かを蹴る音が為て、デイモン・デニム伯爵が小さな悲鳴を上げた。どうやら奥様が、彼の足を蹴ったのだろう。何となく、伯爵が帰ってこない理由が解ったような気がした。なんか容赦が無い。
「この事は秘密と書いておりましたでしょう。何故わざわざやって来て、このような事を告げようとしたのですか?」
奥様の視線が怖い。目元に未だに涙が光っているのだけれど。
今日の奥様は表情がくるくると変わる。時々、マリアに似た雰囲気が垣間見られる。なんか可愛い。
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