伯爵夫人の告白 3
「貴方は双子として生まれたの。そして、御爺様が私が獣腹と呼ばれないように、双子の姉の方を森に捨てさせた」
この国には、双子を獣腹と言って忌避する風習がある。ほとんど迷信でしかないのだけれど、双子は悪しき獣の生まれ変わりと信じられていた。この国の医療水準だと、双子は決して真面には誕生しない。だいたいが流れてしまうから。
それでなくとも出産は、母親となるもにとって命がけで。双子を産むのには、母体が持たない事もあるから。双子は親の命を奪う危険を伴う。貴族のなかには、ちゃんと生まれた双子でも、秘密裏に処理してしまう者もあった。
前世の記憶のあるあたしに言わせれば、ナンセンスすぎて信じられない事なのだけれど。この世界の常識では、双子を産むと言う事は汚れをこの世界に呼び込むことらしかった。
乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の設定では、あたしは国を滅ぼす悪役令嬢だったのだから。この世に仇なす獣と言われても仕方が無いのかも知れない。それに、今のあたしは確かに汚れている。何しろ中の人は不良だったのだから。
「でも、だからといってリコが、私のお姉さんだなんて信じられないわ。似てるけど似ていないじゃない。それに、森に捨てたのなら今こうして生きている訳がないですわ」
マリアが必死に否定している。彼女の顔が青ざめている。そんなこと信じたくはないのだろう。
その頃の事情を、あたしはある程度わかっている。だから驚きこそ無かったものの、何となく嫌な感じが為ていた。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、未だに誘拐された心の傷が治っていないのだ。其れなのに、どうする事も出来ないような過去を告白されている。だって、本当に偶然捨てられなかっただけなのだから。自分のアイデンティティが崩壊してしまったのじゃなかろうか。ぐれないと良いけど。
そんなことを考えながら、マリアの顔を眺めていたあたしに真剣な視線を向けてきた。この領地を統治為ている為政者の顔ではなく。母親の顔になっているように見える。あたしの気のせいかも知れないけれど。
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