残念な父親 12
デイモン・デニム伯爵は、自分の魅力をよく判っている。そして、その美しい顔こそが彼の此れまでの生活を支えている。例え中身が空っぽでも、側のみに価値を見いだす人間は少なくない。特に火遊びをたしなむような、貴族女性は格好の獲物だった。
ただ、なかには彼の中に何も無いことに、気付いてしまう者も居た。たとえば今目の前に立っている、アリス・ド・デニム伯爵夫人がそうだ。
デイモンの価値は、伯爵家のなかでマリアの実の父親であると言うこと以外に無かった。何しろ彼は、領地経営など全く遣らずに。王都において社交という無駄遣いを為ているだけだ。しかも妻を裏切り、外に子供をもうけていたりするのである。そういった事情を知らない物を数える方が早い。ぶっちゃければ、実の子のどもであるマリアだけだった。
あたしは使用人達から、色々事情を聴かされても居た。もちろんそう言ったこと以外に、前世のゲーム知識として、この親父が碌でなしだって事は知っている。もしかすると、嵐の夜に死んだニックより碌でなしかも知れない。この男は、他人のために命がけで何かをするような人間では無かった。
その碌でなしが、あたしの前にやって来た。そしてまじまじと顔を見詰めてくる。マリアに対するような、笑顔を作っては居るけれど。眉間に小さな皺が寄っている。何か思うところがあるのだろう。
「君は何者なんだ」
なんか失礼な物の言い方だった。使用人に対する声かけとしては、有かも知れないけれど。なんかむかつく。
「初めまして。今度新しく雇われました、ナーラダ村のリコと申します。宜しくお願いいたします」
あたしは内心を押し隠して、当たり障りの無い挨拶を返しておく。このいけ好かないおじさんと付き合うのも、わずかな間のことだろう。我慢するのはわずかな間だけである。
だいたいこのおじさんも、モブだったのだから。さらっと付き合えばいいや。
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