残念な父親 10
伯爵様は濃紺の生地の服を着ていた。よく見ると中々金の掛かっている代物らしく、金糸の刺繍が施されている。きちりと手入れの施された服を着ている男の綺麗な顔立ちと相まって、大変美しかった。ゲームのスチルを思わせる姿だけれど。動きが何となく残念な感じがする。
伯爵様の目の下には、可哀想なほど確り隈が現れている。五日間の馬車の旅は、旅慣れない人間には応えるのだろう。護衛してくれている兵隊さんと比べれば、それほどしんどくないと思うけれど。普段遣っていない事は大変なのだろう。
まあ、あたしも馬車に乗っているのなら。馬の背に乗っていた方が全然良いけど。ただ馬車に乗っているだけだと、その間がとても長く感じるだろうなとは思う。だって、暇で仕方が無い上に、地面のまだ整備されていない凹凸が響いてくるのだ。馬車の本体に地面の凹凸による揺れを、干渉するスプリングは実用化されていないからね。
「お帰りなさいませ、貴方」
と、奥様が言っていた。奥様は未だにきっちりと扇子を口元に当てている。
ここからはまるで映画のワンシーンを見ているようだっいた。奥様以外の全員が、最敬礼を表明したのである。一応あたしもコーツイを遣ってみせる。隣に立っているマリアはニコニコしながら、きれいにコーツイを遣る姿勢が良くなってきていた。彼女はコーツイを遣る姿勢が良く成ってきている。
皆に遅れて、簡単に奥様もコーツイを遣っていたけれど。少し簡単で、内心が現れて居るみたいだ。奥様はこの伯爵様が嫌いなんだろうな。離婚すれば良いのにと思うけれど、色々大人の事情があるのかも知れない。そう言う意味では、貴族って大変だよね。
「ただいま。皆元気そうで何よりであるな。マリアも無事で何よりだ」
デイモン・デニム伯爵は、にこやかに笑いながら奥様に応える。そして、軽く挨拶を返す。
そして、奥様に跪いて左手にキスを落とす。その仕草はどことなく芝居がかっている。そんな仕草が、この男を胡散臭く見せているのだろう。
読んでくれてあり我という。




