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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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残念な父親 6

 視線の先にある馬車の一団は、見るからに重要人物の一行だと言う事が解る。二頭立ての馬車は見るからにお洒落で、馬車の持ち主の好みなのだろう。この田舎の整備されていない道を走るのには、むいていないかも知れない。華奢すぎるのだ。

 護衛の騎兵は六人も居る。御者席にも武装している兵士がいることから、この旅にどれだけの経費が掛かっているのだろうか。私兵とは言え、ちゃんと給料を払わなければいけない。それだけでは無い、宿代だって人数分掛かっているだろうし。そういった経費は、デニム家の資産でまかなわれている。其れって、あたしら平民の払っている税金なのだ。

 ちなみにデイモン・デニム伯爵は、自分で働いてお金を稼いできたことが無いらしい。最も此れは、使用人達の間に流れている噂に過ぎないのだけれど。王都で遊んで暮らしていることは間違いないみたいである。伯爵夫人は追い出すことも無く付き合っていると思うよ。

 あたしなら、そんなろくでなしは直ぐに追い出してしまうだろう。だいたい働かない男に価値なんか無いのだから。そんな男が、あたしの実の父親だってんだから、情けなくて泣けてくるよ。

 馬車の一団は、人の歩く速度より早い程度の速度で、こちらに向かってくる。到着するのは、あと二時間は掛かるだろう。あの華奢な馬車じゃスピードを出せば、中に乗っている人間が馬車酔いするだろう。いや、既に酔っ払ってしまっているのかも知れない。

 あたしらが見ている前で、馬車が徐に止まった。護衛に付いている一人が、馬から下りて、馬車の扉を開けたかと思うと。なにやら袋を手渡されている。其れを道の隅に中身を捨てているのが見えた。

 あたしの所からは、其れが何かは解らないけれど。だいたいは想像が付く。昼飯をリバースしてしまったのだろう。なんか兵隊さんが気の毒になった。実際、騎兵の仕事じゃ無い。下働きの使用人の仕事だ。

 ちなみに、其れを目撃してしまったマリアの顔から笑顔が消えた。敬愛する御父様のそんな姿は見たくないだろう。一緒に住んでいれば、結構目撃してしまうことだけれど。あまり側に居なければ、そういった情けないところを見ることはないのだろう。

 そうして、女の子は大人に成るのよ。立派な御父様なんて存在しないのだから。いくらかましなのは居るけどね。たとえば、あたしの父ちゃんなんかね。




読んでくれてありがとう。


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