デイモンという男
王都より下る道を、六騎の騎兵に守られて四頭立ての大きな馬車がゆっくり移動していた。その馬車の扉には、デニム伯爵家の紋章が彫り込まれている。この馬車は、作りが華奢で美しいけれど、きちんと整えられていない道を走るのには不向きな物だ。無理をすると車軸が折れてしまうかも知れない。それほど華奢な作りだった。
基本的にこの馬車は、整備された王都の内を移動するためだけに作られた物だ。其れも、美しい女性を側に侍らせて、貴族の催しに顔を出すための物だ。
田舎道に、似合わない馬車の中には、少し疲れ切った顔の紳士が一人座っていた。その着ている服は、王都で流行っている服を着ている。濃紺の生地に金糸の刺繍が入れられている上品な作りの上着と、細身のズボンにはきっちりとした折り目が入れられてる。其れも此れも、デニム家の資産を使って雇った使用人の、努力のたまものである。
ちなみにその使用人は、今この馬車には乗っていない。一足先に、領主の館に伝言に向かわせた。護衛も付けずに向かわせたので、少し無茶だったかなと思いもするが、給金分ぐらいは働かせなければならない。従者に伝言は伝えたのだから、先触れもなく帰るわけではないのだ。あの口うるさい女に文句を言われることでも無いだろう。
途中で奴が、何者かに襲われようと知ったことでは無い。其れは運が悪かったに過ぎない。
デイモン・デニム伯爵は、辺境の地の治安について信用していない。王都以外は危険のある場所に違いないのである。どこに犯罪者が目を光らしているか解らない。
デイモンは気弱な視線を窓の外に向ける。彼は田舎の空気が嫌いだ。だから辺境の地である領都ディロウへは滅多に戻らなかったのである。しかも馬車で五日もかかる。馬車の移動は過酷で、王都に居るようにきらびやかな暮らしが出来ない。
時々は野営を為なければならないのは、デイモンには苦痛でしか無かったのである。彼は出来るだけ、楽を為て贅沢な暮らしが為たいのであって。美しい女性の居ない旅は苦痛な物でしか過ぎなかった。
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