大人達のお茶会 7
デイモン・デニム伯爵の帰還は、アリス・ド・デニム伯爵夫人にとって不意打ちだった。貴族の常識として、連絡もなく帰ってくるのはあり得ないことだった。
今回は到着の前日に、小物による前触があっただけである。此れは不意打ちであり、秘密を隠す暇も無い。この手法は、使用人の仕事を見張るためのやり口だった。
領主の帰還の前に、最低でも3日前には連絡と打ち合わせが必要で、小物による口頭での連絡では非常識きわまりないことだ。こんな事は今まで一度も無かったことなので、伯爵の腹に何かありそうである。何しろマリアが、誘拐されたときにも戻ってこなかった。薄情な男なのだ。
アリスはデイモンのことが嫌いである。今更、戻ってきたからと言って感情に変化はない。ますます嫌いになってしまう。
だからといって、離婚することも出来ない。このまま、家庭内別居を続けなければいけなかった。この国にある法律は、女が領主としての権利を認めない。たとえ彼女が、領主としての能力を持っていたとしても、国は女領主を認めて居ない。
アリス・ド・デニム伯爵夫人は、実質的に領主であったとしても、国の上層部は認めない。其れはあくまでも、伯爵の補佐として仕事を為ているに過ぎないと考えられている。あくまでも、領地を治めているのは、デイモンと言うことになっているのだ。
其れがたとえ、主家の血筋でなくても。男子優先は当然で、領地経営をするのもデイモンの名前がなければ出来ないように法が定められている。あまりにも古く理不尽な法律だとは思うけれど。今の彼女の立場ではどうすることも出来ない。なんと言っても、法律を決めるのは男ばかりが決めるのだ。
女の権利を認めるわけもない。それどころか、女に学びの機会すら与えられること自体がまれである。
そう言う意味では、アリス・ド・デニム伯爵夫人のように、男顔負けの女傑が誕生すること事態が奇跡と言えた。彼女はこの時代の女性として特異な存在となっていた。
アリス・ド・デニム伯爵夫人にとって、ナーラダのリコは自分で物事を決めることが出来る唯一の存在ではなくしてくれる。味方となってくれそうな気がしていた。
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