大人達のお茶会 4
紅茶のかぐわしい香りが、ジェシカ・ハウスマンの入れてくれたティーカップから、立ち上ってくる。彼女の入れてくれるお茶は十分美味しい。最もこの紅茶は、他国から輸入してきた高級な物なので、不味かったら悲しくなってしまう。マルーン地方でもお茶の葉は栽培しているのだが、どこが違うのか微妙に味が異なる。
「奥様その書面はリコちゃんの物ですか?」
テーブルの上に置かれた植物紙の文面を、チラリと見て言った。
「マリアとリコの成績に対する、担当教師からの報告書ですわ。この報告書を読む限り、リコの成績は驚くほど宜しくてよ」
アリスは嬉しそうに言った。まるで、自分の子供達を誇らしく思っているようである。
「特に算術に関してはかなり良いようね。村では村長の所の文官紛いの仕事を為ていたそうですから、当然のことのなかも知れませんね」
「村に住んでいた賢者殿に学んでいたようですからな。今すぐにでも王都の学院に入学しても、見劣りしないでしょう」
エディは伯爵夫人の表情を読むように見詰めながら言った。
「彼女は対した者です。メイドの仕事を為ながら、教師達の講義を吸収してしまう。その意欲と能力は、奥様によく似ております。そして、こうと決めたら後へは引かない気の強いところも」
と、言うとエディはティーカップを左手で持ち上げて、口元に近づける。その香りを楽しんでいる体で、アリス・ド・デニム伯爵夫人の手元に視線を下げる。
伯爵夫人の手に喜びが表れていた。彼女その感情が手に表れる。喜びも悲しみも手の表情に表れるのである。家庭教師を遣りながら、この国を支える、要の地を統べる女傑アリス・ド・デニム伯爵夫人の心の内が現れる。
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