大人達のお茶会 3
「もったいない。後進に学びを伝えることが、この老骨に出来る唯一のことですからな。奥様のおかげで楽しく授業を行わせて頂いております」
エディ先生は、茶目っ気の有る笑い顔を作って言った。少し若返ったように見える。本当に子供達に教えることが楽しいのだろう。基本的に子供が好きな男性なのだ。
アリス・ド・デニム伯爵夫人が、子供の頃も同じように楽しそうに教えてくれていたことを覚えている。その時の若いエディ先生に、褒められたくて一生懸命勉強を為ていたことを覚えている。あの頃は、彼は若くハンサムで理知的なお兄さんだったのだが。今も整った顔立ちは変わっていない。
此れは秘密だけれど、幼かった彼女の恋心は今も懐かしくキラキラした思い出だった。先代の意見を聞いて、政略結婚をしたのだけれど。その結婚は失敗だった。
何しろ伯爵家の三男とのつながりは、デニム家にとって決して良いことばかりでもない。何より夫となる男は、彼女に言わせれば碌でなしだった。領主としての義務を果たさないばかりか、妾を二人も囲って、子供を何人ももうけている。婿養子なのに外に妾を作り、子供を作るなど信じられないことだった。
名目上、彼が頭首に成っているのだけれど。それをアリスは許せないで居た。妾の子には男子がいたのだけれど、その子供に後を取らせるわけには行かない。そうなると、完全に夫の一族に乗っ取られてしまうことに成る。出来れば追い出してしまいたかったが、彼女の子供はマリアの一人だけだった。
マリアが居なくなったなら、デニム伯爵家を次いでくれる者が居ない。アリス・ド・デニム伯爵夫人だけが、直系といえる者だけだった。
マリアが誘拐されたとき、夫の顔がちらついていた。その疑いは、伯爵夫人の心の中にあった。何故なら、マリアがいなくなれば妾の子が跡をとることに成るからである。
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