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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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十三歳の春 26

 エディ先生が待っている、サロンと呼ばれている所はこの母屋の一階の小部屋だ。その部屋は、大きなガラス製の窓のある、居心地の良い部屋である。小部屋と言っても奥様が、時折お茶会をするのに使っている場所なので決して小さくはない。

 エディ先生の授業を受けながら、この部屋の広さが落ち着かない程度には広い。個人授業を受けるのは、マリアの応接間で遣っても良いだろうとあたしは思うのだけれど。未婚の少女の私室に男性を通すわけには行かないらしい。言っても子供なのにね。

 あたしとマリア、そして今日は呼びに来てくれたメイドさんが連れ立って、サロンに向かって歩みを進める。サロンは母屋の西の端にある。其処は南側と西側の壁際に、この国の常識では、あり得ないほど大きなガラス窓が有る。

 板ガラスの窓自体が、この国が珍しく高価な物で、戦うことを想定されている城の中に、人間が通り抜けることの出来る大きさはあり得ない物だそうだ。ただ、この窓は有事のさいには、鉄製の引き戸で閉じることが出来るようになっている。それでも、ゲームではここは激しい戦場になるはずで、出来ればこの鉄製の引き戸が使われることなく。この気持ちの良いサロンのままでいて欲しいと思う。

 あたし達の前に小走りに出てきたメイドさんが、繊細な意匠を施された扉をノックする。本当は、あたしの仕事なのだけれど。今日はお嬢様モードで居るようにとの、奥様からのお達しがあった。なんちゃってマリアの実力を、あのダメンズに認めさせるつもりなのだろう。その為の小芝居をするのかなと思う。

 でもさあ、あの事件依頼一度も帰ってこなかった奴が、今更帰ってきたからって、何か言う権利があるわけがないと思うのだけど。だいたい入り婿のくせに、妾を二人も囲って、都会でぬくぬくしてるなんて信じられない。

 扉が内に開くと、エディ先生のお持て成しを為ていたメイドさんが出てきた。部屋の中から、紅茶の香りがあたしを迎え入れてくれる。

 此れまで考えていたことを、頭の隅に追いやって、顔の表情筋を操作して、令嬢らしい密やかな笑顔を作る。ちなみに、基本的なマリアの笑い方である。本当に笑っているわけではない。


 


読んでくれてありがとうございます。

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