甘くないクッキー
読んでいただきありがとう
庵の中は、乾燥させた薬草が所狭しとぶら下げられている。
壁には作り付けの、本棚があり。紐でとじられただけの本が並べられている。オルドのアス様が自分で、書写して閉じた貴重な本ばかりである。たまにあたしも読ませて貰うけど、理解に苦しむ物もある。
あたしが読んで面白いと思うような物はない。そのほとんどが、博物学か理数系の物だった。この内容を書き写したのかと思うと、尊敬してしまう。あたしは、絶対そんなことはしたくないと思う。印刷技術をどなたか早く発明してくれ。
何しろあたしは、単なる不良なので、活版印刷の技術なんか理解していないので、作り出せる気がしない。ちなみに、うまい料理を提案することなんかも出来ない。だいたい、前世で料理を作ったことなんか無いのだ。だって米は炊飯器があったし、インスタント食品で十分食べることが出来る。異世界に来たから無双出来るわけでは無いのだ。ほとんど母さんが作っていたし。
あたしとボルグは、部屋の中にある小さなテーブルセットに腰掛ける。普段は賢者様が本を読むのに使っている場所である。あたしの足下には、黒猫ケイトリンさんが身体を押しつけてきている。賢い彼女は、此れからティータイムであることに気がついている。ミルクを期待しているのかも知れない。
賢者様が、煎れてくれたのはいつもの紅茶である。定番の紅茶には、ミルクが入れられている。砂糖は高いので、テーブルの上には置かれていない。小さな皿の上にはビスケットが三枚のせられている。此れはあまり甘い物ではない。近所のマミーおばさんが焼いた物だと思う。最近、賢者様は彼女と付合っているとアガサおばさんが言っていたことを思い出す。
「領主様の所へ奉公と言っても、少し早すぎるとは思うが、お父さんはなんと言っているんだい?」
「父ちゃんも一緒に領主様の所に雇われる事になったので、そんなに心配はしてないわ。だいたい領主様が命令と言ってるいじょう。あたしらには、どうすることも出来ないのは判ると思うけど」
「僕は反対なんですけどね」
ボルグが早くもクッキーに手を出しながら言った。少しばかり、行儀が悪いかも知れない。
「そうか。奴も行くなら心配するだけ無駄だね」
賢者様は、その皺だらけの顔を綻ばしていった。父ちゃんとはずいぶん昔からの友達で、あたしが生まれたときから面倒を見てくれていたらしい。さすがに幼い頃の記憶はおぼろげで、思い出すことが出来ない。かえって、前世の記憶の方が、確りしていたりする。




