十三歳の春 25
だいぶ厳しくなってきました。少しお遅れがちになります。
「今日も何時もの通りに、サロンで授業なのよね。御父様がお帰りになるのですもの、授業はお休みにならないのかしら」
と、マリアが声を掛けてくる。彼女は勉強をお休みしたいのだろう。そう顔に書いてあった。
あたしもその意見には同意だけれど、伯爵様とあまり会いたいと思わない。何しろ彼は間違いなく顔だけ男の駄目な人だったはずで、奥様に領都の経営を任せっぱなしで、都会で面白おかしく暮らしている。なにしろ妾を二人も囲っているらしいのだ。使用人達の噂話なので、勿論その事が本当かどうかは解らない。でも、全くの出鱈目でもないだろう。
ゲームのスチルの中に、一寸だけモブ的に登場していたのを記憶しているけれど。悪役令嬢マリアが御父様と呼んでいたことから間違いないだろう。黒髪に黒い瞳に整った顔立ち。大人の色気が匂い立つような美形だった。
あたしは乙女ゲームの常として、ほとんどの登場人物が美しくなっている。だって、やっぱり綺麗な者を見ていたいのは当然だしね。何しろ二次元の世界なのだから、いくらでも美しく描くことが出来る。綺麗であるに超したことがなしね。
一応、伯爵様はあたしにとって、父親と言うことになるのだけれど。全く実感が湧かなかった。奥様に対しても自分の母親だという実感を、感じないで居るのだから、当然だと思う。やはり、あたしの中で、父ちゃんと母ちゃんはあの二人なのだ。
「旦那様がお帰りになるのは、午後の三時頃ですから。其れまでは時間があります。午前中が空いているのだから、その時間を有効に利用するべきですわ」
侍女のドリーさんの物真似をし手見せながら、マリアの肩にそっと触れる。お勉強を怠けていて、こうかいしているお姉さんとしての意見を言ってみる。素のあたしの言葉よりドリーさんの物真似の方が、説得力がある気がする。しかも、角が立たない。
「似てルー。流石ドッペルゲンガー。もしかして、ドリーにも化けることが出来るの」
マリアがニコニコ笑いながら言った。今日のお嬢様は、上機嫌なので有る。
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