十三歳の春 24
遅れました。
仕事をしながら学びの機会がある。熟々あたしは奥様に優遇されている。村娘の待遇としては、破格な条件だ。その代わり危険な身代わりの仕事が義務づけられている。だから、これくらいの優遇は当たり前なのかも知れないのだけれど。其れを知らされていない、同僚にとっては疑問を感じる物かも知れない。
あたしがそんなことを考えていると、扉を叩く音が現実に引き戻した。ちなみにあたしに向き合うように座っていたマリアは、いつの間にか持ち出した刺繍道具を取り出して、やりかけの刺繍をやり始めている。本来なら、あたしが彼女の為に道具を用意しなければいけないのだけれど。こんな処を見つかったら、サンドラさんにどやしつけられるだろう。気を付けよう。
「おはようございます。エディ・アーティス様がいらっしゃいました」
サリーさんが声を掛けてくる。彼女はあたしが遣る仕事を代わりに遣ってくれているのだ。申し訳ない気がするのだけれど、仕方が無いよね。一応業務命令には違いないし。
あたしは返事を返すと、お嬢様に視線で合図を送って。徐に立ち上がり。扉の側まで向かうと、真鍮製のドアノブを握り。右にひねってひき開けた。
今はベテランの域に入っている女性が、メイド服を着て立っていた。髪の色はくすんだ銀髪で、瞳の色は薄い青色をしている。サリーさんは異国の人だ。ちなみに料理長の奥様だった。子供は三人居たはずである。
「あ、おはようございます。サリーさん」
「貴方もそう言う格好していると、まるでお嬢様にそっくりになるのね。今日は、その格好で旦那様に会うって訳ね」
と、笑いながら言った。
「何だかよく判らないのだけれど、サンドラさんの言いつけでね。あたしは仕事していた方が楽なんだけど」
あたしは苦笑いで応えた。実際、メイドの仕事の方が楽だ。
読んでくれてありがとうございます。




