十三歳の春 23
遅れました。すんません。
マリアの応接間は、結構広い。其処には贅沢な作りの家具が置かれている。立派な暖炉が目立つのだけれど、其処には薪がくべられており。既に火が付いている。
冬が終わろうとしているとは言え、まだ朝は肌寒い。花が咲く季節にはまだ早い。この暖炉に火を入れるのは、あたしの仕事だ。当番のメイドの先輩が、種火を持ってきてくれるので、お嬢様が起き出すまでに部屋を暖めておくことが出来る。
そうするために、あたしは、前世じゃ考えられないぐらいの早起きに慣れきってしまっている。小さいときからの習慣とは恐ろしい。元不良が、ちゃんとした奉公人みたいである。
この世界の人間は、暗くなると寝て明るくなると起き出す生活。其れがスタンダードな生活だ。
デニム伯爵家の使用人達は、とくに御屋敷で働く者は暗い内から起き出して、一日の準備のために仕事をしている。たぶん一番早いのは、当番の料理人が早いのだけれど。その次が、朝の種火番のメイドさんだ。ちなみに、あたしは種火番を仰せつかったことがない。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の、護衛を兼務のメイドなので、なるべくお嬢様から離れるような役割は回ってこない。種火番は種火が消えないように起きている。此れはしんどい仕事だ。だから、ローテーションを決めて新人メイドが担当する。本当ならあたしも種火番の仕事が割り振られるのだけれど。何故か声すら掛けられないで居る。ある意味特別扱いされているのだ。
最初の契約書には、あたしの仕事はメイドの仕事に会わせて、影武者を含めた護衛としての仕事があるので、マリアの側に居ることが出来なくなるような、仕事は割り振られないようになっている。だから、メイド仲間に対してもそのように説明して、納得して貰っている。こんなに優遇されていれば、メイドさん達に陰口をたたかれていそうだけれど。不思議なことに全くそんなトラブルにさらされることがなかった。
メイド長のサンドラさんがきっちりと、彼女達を引き締めてくれているから、そういったトラブルが起こらない。サンドラさんの人心把握力には頭が下がる。おかげで、あたしは楽しく仕事が出来ている。
同僚の心の中に、悪感情があればきっと遣りにくくなっただろうから。デニム伯爵家は、職場としては悪く無い場所だと思う。
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