十三歳の春 21
あたしは今日の予定を、頭の中で整理した。簡単に言うと、何も出来なくなったって訳だ。此れも仕事の内なのだから仕方が無い。昨日までの予定では、お嬢様は家庭教師のおじさんの授業が入っていたはずで、それに付き合ったら後はメイドの仕事が入っていた。其れが終われば、少し時間が取れる。空いた時間で、弓を手入れしようと思っていたのだけれど、其れはなくなった。
そろそろ手入れしておかないと、使い勝手が悪くなる。自分の道具は自分で面倒見るのが常識なのである。下手に怠けていると、父ちゃんに叱られる。手加減しているとは言っても、この年になってまで、お尻ペンペンの形は嫌なのだ。
フレドリック・ド・デニム伯爵は、抜き打ちで此方に乗り込んでくるらしい。連絡しないで領都に帰ってくるのだ。先触れの者が朝、突然やって来たそうである。あのダメンズがやって来るのは、午後三時頃になるそうで。あたしの空き時間が完全に消え去った。ま、諦めるしかないかも知れない。
「小一時間で、エディ先生が来るから、貴方もそのつもりで居てくださいね」
エディ先生は歴史と地理を主に教えてくれる人で、白髪頭のお爺ちゃんである。令嬢が学ぶような、内容では無い気がするけれど。それでもわざわざマリアに学ばせようとするのは、奥様はマリアに領地を治めさせようとしているのだろう。
何時もなら、あたしもエディ先生の授業を受けるようにしている。もっとも、普段はメイドとして部屋の端に立って聴くだけだったけれど、それでも結構面白かった。こんなに面白かったなら、不良なんか遣らないでまじめに授業を受けたのにな。
「このドレス脱いじゃ駄目か」
「駄目だと思うわ。御母様が言っているのだから、勝手に脱いだらドリーさんあたりに鞭打ちされるかもよ」
マリアがとんでもないことを言ってきた。なんかマリアの顔が悪い表情を作っている。面白がっているに違いない。
此れってハラスメントだと思うのだけれど。この国にはそんな概念すら全くないのは知ってるんだよな。
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