十三歳の春 20
しみじみドレスが重い。あたしが持っているドレスの中で、比較的簡易な物だけれども、普段使いのメイド服や胴着と比べると動きにくいし、気を遣わなければ何も出来ない。下手をすると簡単に破けてしまいそうで緊張してしまう。
あたしはマリアとともに、彼女の部屋に向かった。難か気が重い。
「顔色が悪いけれど大丈夫?」
と、マリアが尋ねてきた。その顔は面白がって居るみたいである。
「あたしゃ訳がわからないよ。旦那様が帰ってきたからって言って、何であたしもおめかしして迎えなけりゃ行けないんだい」
「解らないわ。でも、御母様がそう言うのだから、そうすれば良いだけではないかしら」
「お嬢様は嬉しそうですね」
「嬉しいわ。だって、私の大事な御父様がお帰りになるのですもの。それに、きっとすてきなお土産が有ると思うわ」
デニム家の頭首フレドリック・ド・デニム伯爵は、王都で官僚を務めていることになっている。其れは名目上に過ぎなかったが、何しろ王都で遊びほうけているなどとは娘に言えないだろう。マリアはその領民に対する、嘘を心から信じているのだ。
実は、使用人達は主人一家の事情をよく知っている。中には、その噂を話したがる者に事欠かなかった。何しろ、主人一家の噂話は気軽に話すことが出来る娯楽なのである。責任有る立場の使用人は、そういった事を咎めるけれど。末端に成れば成るほどそのあたりはダダ漏れになる。人の口に戸は立てられないって本当らしい。
皆内緒だけど、と言う枕詞を載せて主人一家の醜聞を話すことが良くあった。あたしは其れを黙って聞いているだけで、かなり事情通になってしまった。
その噂話を信じるなら、フレドリック・ド・デニム伯爵はとびきりのダメンズである。王都の御屋敷に平民の娘を引き込んで、遊び倒しているらしいのだ。困ったことに、建前として彼がデニム家の頭首と言うことになっている以上、たたき出すことも出来ない。だから、問題が起こらないならば、このまま別居状態でいることを奥様は選択しているらしい。
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