十三歳の春 17
遅くなりました。
「遅ーい」
マリア様が、ニコニコしながらあたしに声を掛けてきた。今日も元気に機嫌が良さそうだ。さっきも機嫌が良かったけれど、更に機嫌が良い。
マリアと違い、奥様の表情があまり良くなかった。確かに微笑んでいるのだけれど、心がここに居ない気がする。何か心配事でもあるのだろうか。悩みを内に秘めている人が無理遣り笑い顔を作っているときの顔だ。
「おはようございます。お待たせしてしまって、申し訳ございません」
お約束道理にコーツイを遣って見せて、ちらりとドリーさんの表情を盗み見る。彼女は困った顔をしていた。
此れは少なくともマナーの試験ではない。あたしはそう結論を出して、内心安堵した。と言うことは厄介な案件が、持ち上がっているのかも知れない。またマリア様の振りをすることになるのかも知れない。嵐の夜みたいな騒動に発展しないことを、あたしは心から祈りたくなった。
「おはよう。取りあえず食事をしてしまいましょうね」
奥様が大きく笑顔を作って、右隣のあたしの定位置となる席を指し示してくる。すっと、ドリーさんが椅子を引いてくれる。此れってさ、使用人に対する態度じゃないよね。だってあたしは平民の娘で、彼女は男爵家の令嬢なのだから。なんか立場が可笑しくないかな。
此れも仕事の内と何度も胸の内で呟きながら、あたしはドリーさんが引いてくれた椅子に腰を下ろす。なるべくマリア様の仕草に似せて、一挙手一投足に気を遣ってみせる。並んでいなければ、見分けが出来ないように意識する。
此れは自慢だけれど、あたしはマリア様と並ばなければ他人には見分けが付かないくらいになっていると思う。本当に双子なのだから、他人には見分けが付かないのは当然なのだけれど。今の処、見分けられるのはドリーさんと、奥様の二人くらいしか居ない。
最初、あたしに始めてあったマリア様が言った、ドッペルゲンガーの様にそっくりになってきていた。何より、あたしの食糧事情が良くなったので、そっれなりに女の子らしい体型になってきてしまっているので、マリア様より色っぽくなってきていることが問題かも知れない。
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