十三歳の春 16
「あんたが来てから、奥様もお嬢様も元気になったみたいだからね。あんたには期待してるんだから、上手くおやりよ」
サンドラさんが、鼻歌を辞めてあたしの顔をまじまじ見詰めていった。彼女に右手には、自分の櫛が握られている。ちなみにその櫛は、彼女のメイド服のスカートのポケットに何時も入れられている物だった。あの櫛は鼈甲細工の良い品物である。普通のメイドの二週間分の給料が、消し飛ぶような高級品だ。だいたい鼈甲がてにはいリにくい材料の上、其れを作る職人があまり居ない。どうしても高くなるのだろう。
前世の日本でも、手作りの物はどうしても高く付く。あの頃のあたしには興味も無かったのだけれど。それでも、手作りの工芸品は見た目よりも割高な物に感じられていた。
確かに、奥様やお嬢様も気のせいか、楽しそうにしているような気がしていたのだけれど。どうも、サンドラさんはその原因があたしだと思って居るみたい。良いけどね。
まあ、確かにマリアはあたしに倣って、少しずつ運動し始めているから、健康的な生活をし始めていると言えなくもないかな。ただ、奥様はどうなのだろう。あの女性は、日々忙しい生活をしているし。何時も疲れているように見えているのだけれど。
以前のあの人がどんな生活をしているのか解らないから、どこがどう変わったのか解らない。他のメイドさんの話では、今の方がずっと元気になったと言っていたけれど。あたしには比べることが出来ないから、全く解らないかな。
「あの、サンドラさん。なんか今日は、何時もと違う気がするんですけど」
「実はね。今日は、旦那様がお帰りになるので、あんたには奥様が元気になるようにして欲しいんだよ」
「旦那様って?」
「王様のお膝元で、お勤めをなさっているディモン様だよ。あんたは初めてだから解らないだろうけど、旦那様が帰ってくると奥様が大変に成るから、あたしゃ心配なのさ」
サンドラさんが、あたしの肩に手を載せて、部屋から連れ出そうとして押してくる。あたしはなんからしくない仕草だなと思った。
読んでくれてありがとう。




