十三歳の春 14
隣の寝室にクローゼットから、今日着るように仰せつかっているドレスを引っ張り出した。比較的シンプルなデザインのドレスで、それなりに動きやすくなっている。淡い桃色のドレスだ。
単に朝食を一緒に食べようって事なんだろうけれど。あたしには何で、朝ご飯をとるのにこんなに肩のこるドレスなんか着なきゃいけないのか、さっぱり意味不明だ。本当に貴族のやることは解らない。此れがちゃんとしたディナーなら解るんだ。きちんとした格好で、マナーを守って美しく食事をしてみせる。それなら解るのだけれど、身内しかいないところでの食事なんだよ。
あたしは、一人ため息をつきながらドレスを着込んでゆく。急いで着終えてしまわないと、サンドラさんが着替えの手伝いに来てしまう。懇切丁寧に着替えさせられるのは、庶民のあたしには結構来る物がるのだ。
この年に成れば、自分の服くらい着ることは出来なきゃいけない。勿論自分で着ようとすると、相当困難な難事業と成るドレスもあるので、そのあたりは仕方が無いとは思うけれど。簡易な物なら自分で着替えられなきゃ駄目でしょう。
「リコ。手伝いますわ」
楽しそうにサンドラさんがやって来た。この人はあたしの世話をすることが楽しみに成っている気がする。何となく怖い。
「いや、今着替え終わるところだから」
サンドラさんの手があたしのドレスに触れる瞬間、身を躱す。なんか触られるのがいやなんだよね。顔が怖いし。それなりに美人だけれど、凄味があるのだ。
ほんとにこの人メイド長なんだよね。やっぱり最初の出会いが良くなかった。メイドとしての所作を、厳しく指導されたのが効いていて、あたしの中に苦手意識が作られている。
あたしはこの人が側に居ると、何時もの調子が出ない。ぱぱっとドレスを着込み終えると、愛想笑いを浮かべて身を翻す。
「では御髪を梳りましょうね」
サンドラさんがどこから取り出したのか、櫛をぶきのようにかまえて言ってきた。此れが格闘なら、あたしは怖くないのだけれど。なんか怖い。
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