お姉ちゃんは悪役令嬢?2
誘拐犯達は、この状況を打開するべく、顔を出したあたしと父ちゃんに視線を向けてくる。勿論あたし達は、逃げ出せる隙なんか与えるつもりもない。致死性の毒を使わないでやったのだから、有難いと思ってくれないと困っちゃう。
まだ森の中には、ニックの兄ちゃんが隠れて待機している。ちなみにさっき尻に矢を打ち込んだのが、ニックね。父ちゃんは、良い感じでロープを引き上げるのが役目ね。
で、父ちゃんは隠れていた反対側から、短弓に矢を番えて、尻に矢が生えてるやつに、弓を向けている。麻の動議に木綿のズボン、腰には紐で結んだ鉈をぶら下げている。ちなみに短弓とは言っても、熊みたいにでかい男が、自分の体格に合わせて、作った代物である。あたしの短弓の3倍はでかい。この距離で撃たれれば、革の胴着なんか意味をなさない。
あたしも弓に矢を番えて、ゆっくりと馬車の後方に回り込む。太股に矢が刺さっているやつの顔色が、だいぶ青ざめてきている。毒が効いてきているのだろう。
ニックが隠れていたところから、顔を出してきた。もしもの時に、援護してくれるつもりなのだろう。
「嘘だろ」
太股に矢が、側まで近づいたあたいの顔を睨み付けてきた。短剣をこちらに向けてはいるが、まともに使えそうにない。だいぶ毒が効いてきているみたい。無力化していると考えても良いかな。
あたいは弓を下ろして、厚手の幌をめくる。果たしてお宝がそこに居る。栗色の髪の少女が、無慈悲な縛り方をされて転がされており。良い生地で縫製された、クリーム色のワンピースはこれまでの旅路でずいぶん汚れている。特にひどいのは、お漏らしをしたのか真っ黒に汚れていた。
「生きてるか?」
猿ぐつわをかまされている彼女は、苦しそうに声を上げて、こちらに顔を上げた。その相貌はあたしにそっくりでとっても可愛い。(乙女ゲームさくらいろの君に・・・)の設定では秘密だけど、一卵性双生児だったから、とってもそっくりなのだ。
それを利用して、あたしはマリアに成り代わって、デニム伯爵家に乗り込んで。そのまま令嬢として、攻略対象たちに会うことになる。