十三歳の春 6
すみません、遅れました。
あたしはマリアの部屋の扉を押し開けた。其処には朝の光に照らされた、綺麗なテーブルと四脚の椅子がいつでもお茶会が出来るように準備されている。東側の壁には気持ちばかりの本棚が置かれている。書籍の数はそれほどでもない。マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、あまり読書をする人じゃなかった。十三歳の子供にしてはよさげな本を持っているけれど、その三分の一以上読んでいないことが、この間判明したばかりである。
ちなみに本棚の側には、執務用の机と椅子が置かれている。ほとんど使われていない机が一寸寂しげである。あたしに言わせれば、もったいないことだと思う。この世界の本は、すべて手書きであり。その為、大変高価な代物となっているのだ。
平民のほとんどが、文字を読むことが出来ない関係上。本の中にある知識の価値を知るものは、高価な本を手に入れて読むことが出来る、裕福な者に限られている。このことが、決定的な階級社会を作り上げているのだ。
つまり持つ者と持たざる者との差が、とてつもなく大きな物にしていた。それは命じる者と、命じられる者との立場を固定化させる。つまり貴族は貴族としてあり続けることが出来る。よほどのことがなければ、立場が変わることがない。
入れ替わるようなことをしなければ、あたしみたいな平民が貴族になることなど出来ない。もっとも、あたしは生まれだけなら、デニム伯爵令嬢と言えるのだけれど。前世で、この世界を舞台にしたゲームで遊んでいたから、登場人物の設定を知っているのだ。
未だにあたしのことを、デニム夫人は話してこない。一応あたしは、父ちゃんの子供と言うことになっているから、それを信じている振りをしている手前。此方はナーラダ村の娘らしく振る舞わなければいけなかった。
あたしはその方が気楽だし、断罪されることもないだろうから、良い案配だと思っている。このまま、マリアが王都の学校に入学しても。悪役令嬢役を演じたりしなければ、この国がなくなったりしたりしないだろう。
読んでくれてありがとう。




