十三歳の春 3
デニム家の城の中にある鍛錬場はかなり広い。ここは歩兵の訓練に使う場所なので、馬場と比べれば小さいけれど。平たく整備されている場所を一周するだけで、約二キロは走れるだろう。あたしの足で、歩いて三十分くらい掛かったのだから、そのくらいだろう。
難いの良い野郎どもが、抱き合っているあたし達を追い抜いてゆく。デニム家が雇っている私兵連中の一団である。災害時には救援部隊として、救助活動をする意外なくらい頼りになる兵隊さん達である。荒っぽいけれど気の良いおじさん連中だ。ちなみに学は無い。
この一団の中に、何人かはあたしに文字を習いに来る者も居る。それが学びたいから来ているのか、あたしに触りたいから来ているのか判らなくなることがあるけれど。触り方が可愛いから良いけどね。
あたしの父ちゃんは、この連中の隊長に成り上がっているので、その娘のあたしにセクハラすれば、とんでもない訓練という名のお仕置きが待っている。ちなみに何人かはその訓練という名のお仕置きを経験してからは、大変大人しくなり紳士的な行動をとるようになった。普段の訓練だって、結構ハードなのにその特別訓練は、立派な兵隊さん達が恐れる。ただ、その訓練を済ました兵隊さんは、あたしの目には他の連中より少しだけ強くなっている様に感じられた。
「朝から良い眺めだなぁ」
「お嬢。急がないと朝飯に遅れますぜ」
「お嬢様も少しだけ長く走れましたな。偉いですよ」
「お嬢。今度は負けないからな。夕方の射撃場に待ってるぞ」
「お目ーには無理だわ。また銀貨を巻き上げられるのが落ちだぞ」
男どもが抱き合うあたし達を追い抜きながら、次々と声を掛けてくる。連中はあたしらの顔を見るたんびに、なんだかんだとちょっかいを掛けては、父ちゃんにどつかれている。どうも少ない娯楽になっているらしかった。一日の大半が訓練。唯一の娯楽は非番になったときの、酒場でのどんちゃん騒ぎぐらいしかないのだ。
ちなみにこの時間に、この鍛錬場を走っていると言うことは、屋敷の側に立てられている寄宿舎に住んでいる連中だと言うことで。非番にならないと、遊びに行くこともできない可哀想な野郎どもだ。あたしはからかってくることくらい良いかなと思っている。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢はそうは思っていなかったけれど。だからといって、問題にもならない。この屋敷を取り仕切っている、デニム伯爵夫人が全く気にしない人だったから。
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