十三歳の春 2
あたしが伯爵家に雇われて、七ヶ月が既に立っている。メイドとしての仕事にも慣れて、かなり自由に自分の時間を使うことが出来るようになって。楽しくなってきていた。
去年の水害時にあった鼠退治以降、全くなりを潜めている。あたしは、このまま平和な状態が続いてくれる事を祈っている。水害によって受けた、被害から未だに立ち直っていない者達が一杯居るのだ。そういった人たちに対する応援も、専制君主政をとっている国では、平時ならば出来るかも知れないけれど。此れが一度事件があると、途端に止まってしまうことがある。
使えるリソースには限界があるらしいのである。それが、伯爵家の規模ではそれほど大きくはないみたいなのだ。だいたいあたしの故郷であるナーラダ村は、一番酷い目に遭ったのだけれど。潤沢な支援を貰えないでいた。ようやく冬を越えることが出来た程度である。餓死者が出なかったことだけが救いかも知れない。
「少しは加減してよ。私は貴方と違って、繊細なんだからね」
と、あたしに抱きつきながら言った。
マリアの言い分は、あたしにはよく判らない。あたしは結構御貴族様の喋リ方になれたつもりだけれど。言葉のチョイスを間違っているような気がする。
「だからちゃんと待っていたでしょうが」
あたしは、彼女の綺麗に整えられた長い髪に、軽く手を載せる。少しきつい香水の香りが、あたしの鼻腔を刺激した。
最近彼女が気に入っている香水である。あたし的には、あんまり好きになれない物だった。出来れば、他の物にして欲しいと思っているけれど。どうやってそれを伝えて良いのか解らない。
最近は、結構彼女と仲良くなっているとは言え。使用人とお嬢様との関係性なので、中々言い出しにくい物なのである。香水を使うより、豆に身体を清めた方が良い気がするのよね。何しろ伯爵令嬢なのだから、潤沢にお湯を使うことが出来る立場なのだから。
どっかの転生者さんみたいに、石鹸を作れれば良かったのだけれども。あたしには石鹸の作り方が解らない。何しろ生まれたときから側にあった物だから。それを自分で作ろうとか思ったことがなかった。きっと一寸したことで作れるのだろうけれど。レシピが解らない以上作ることなんか出来ない。どこかの誰かが作ってくれることを期待するしかなかった。
マリアがあたしとジョギングするようになったのは、最近だいぶ元気になってきたからである。そして、女の意地のためらしい。あたしには、全く理解できない理由からだった。
一緒に居ると解ることは、彼女が運動不足の上不摂生していることは解る。そのせいで、成長が阻害されているのだ。だから、最近の彼女の身長はあたしより低くなっている。双子とは言え、生活の仕方で身体の方は変わってくる。半年前までは、ほとんど変わらなかった体型が異なってきていた。未だにツルツルペッタンだった。
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