ベッドの中で 4
あたしの頭の中には、今にも泣き出しそうにしているメイドさんの顔が、浮かんでは消えていた。たぶん藁にもすがりたい心境で、あたしなんかに相談してきたのだろうけれど。所詮は元不良娘に何が出来るって言うんだ。
日本には、たぶんそんな病気に対する対処法があったのだろうけれど。医学を志して勉強なんか遣ったこともない、あたしが何か出来るわけが無いのである。そんなことは、医者の教育を受けた人間に言ってくれ。どこかのラノベの主人公にお願いしたい。
あたしにはどうすることも出来ない。その事を頭では理解している。でも、感情が許さなかった。何となく気持ちが悪いのだ。
前世にはそういった知識が存在していた。その事を、あたしの知識の中にはない。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢をすくうことが出来たのは、彼女が日照神に取憑かれただけだったから。前世で、熱中症の対処方法を知っていたから。そして、一度ではあるけれど熱中症になった人を助けた経験があったからだ。
土嚢袋の工夫なんかにしたって、水害に遭ったところについての補修工事について、あたしが子供の頃にテレビで見ていたからである。ボランティアのおじさんが説明していたのを覚えていたのだ。
「あまり当てにしてくれても困るな」
あたしは上掛けを顔まで、引き上げながら呟いた。出来ないことがあまりにも多すぎる。
普通の不良が何で、こんな処に記憶を持って転生してしまったのだろう。しかも悪役令嬢の役どころで。あたしはそんなに賢くないのだ。
この国に襲いかかろうとしている、破滅を少しだけ遠ざけるくらいは出来るだろうけれど。単なる村娘に何が出来るって言うんだろう。
あたしは一寸だけ、人より目が良いだけの餓鬼でしか無いのだから。
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