勉強しなさい
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木造二階建てのうちの中は、独特の臭いがしている。此れまでに仕留めた、獣の臭いと道具を手入れする油の臭いが渾然一体となって、この一階にこびり付いている。ここの住人である、ナーラダのリコにとっては落ち着く臭いだけれど、他の農業を生業としている、村の衆にとっては、好かれる臭いではないらしい。
今は曇りなので、部屋の中は少し薄暗い。まだ昼間なので、明かりを付けるほどは、暗くは無いけれど、陰の中に何かが居そうな感じがする。
壁には父ちゃんの背よりも大きな弓と、手槍がかけられている。この得物はたぶん持って行く荷物になるのだろう。父ちゃんは村の村長の所へ挨拶に行っている。要らない物は、村の衆に使って貰うことに成っているから、ほとんど持ち出すことは無いだろう。身の回りの物は、デニム伯爵家が用意してくれることに成っている。
それでも、使い慣れた道具は持って行かないわけにはいかない。其れと母ちゃんの付けていた日記は、持って行く。この中には、父ちゃんが好きな料理のレシピが書き込まれているのである。
母ちゃんは、あたしが五歳に成ったときに無くなった。その時にあたしは前世の記憶を思い出した。すごく易しい人で、少し病弱な感じではあったけれど、あたし達にとっては掛け替えのない人だった。たぶんショックだったんだろう。
あたしは泣いて泣いて、高熱を出して寝込んでしまったらしい。其れが2日続いて、気がつけば十七年間の記憶を持ってしまっていた。その時、一回死んでナーラダのリコに生まれ変わってしまっていた。
「リコ・・・。御
領主様の所に奉公に行くって、本当か?」
突然、村長の所のボルグが声をかけてくる。あたしより一つ年上の男のこである。金髪に青い瞳で、整った顔立ちの容姿をしている。ちなみに彼は、ゲームの中で、あたしをかばって命を落とす一兵士に成っている。この村から出なければ、そんな目に遭ったりしないですむはずなのに。
「なんか、成り行きでそうなったのよ。まあ、良い金にもなるし。一緒に父ちゃんも行くから心配しないでね」
「俺の嫁になるんじゃ無かったのかよ」
「何時の話を言ってるの?」
あたし言ったけど、其れって前世の記憶が戻るまえの話じゃ無い。なんでそんな昔の話今言ってくるのかな。女々しいぞ。
「おっちゃんだって、許してくれるって言っていたぞ」
「手紙書くから」
「俺読めないし」
勉強しなさい。