食事会の後で 7
きっちり寝間着を着せられて、あたしは用意されているベッドに潜り込んだ。このベッドのシーツもこれまた、きっちりと手入れされていて気持ちが良い。流石に此れは、新品じゃなかった。大きなタオル地の上掛けが、お日様の臭いがするような気がする。さっきまで日に干されていた物だろう。
「私は控えの間で、休んでおりますから。何か用事がありましたら、呼び鈴を鳴らして下さいませ」
ドリーさんが、模範的なコーツィをしてみせる。あたしやマリア・ド・デニム伯爵令嬢のそれと比べると、えらく色っぽい仕草だった。もしかすると伯爵夫人のそれより色っぽいんじゃなかろうか。普通のメイドには、あんな仕草を出来ないだろう。なんか、昔見た洋画の女優さんのように優雅で綺麗だった。
ドリーさんは、使用人用の個室に向かう扉を開けて、先の個室に入って行く。あの部屋は日本の感覚でも、狭い部屋である。確か三畳半くらいのへやで、簡易のベッドだけがある殺風景な部屋だ。本当なら、あたしの寝床になるはずの部屋だと思う。あたしの方が、ずっと下っ端なのだから。
色々経験済みの大人のお姉さんには適わないのかも知れない。
「エロいなー」
あたしは使用人の扉が閉まると呟いていた。
「そりゃそうでしょう。彼女は事情があって、没落した子爵家の御令嬢だし。一度は結婚した大人の女性だしね」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が話しかけてきた。あたしと同じ顔が、面白がるような顔は初めて見た。意外に可愛いじゃないと、あたしは心の中で呟く。自分の事を褒めているみたいで、こそばゆい感じがする。
「そんな人がメイド遣ってるの?」
「何馬鹿なこと言っているのよ。彼女は侍女頭。しかも、御母様付の侍女ですわ」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、タオル地の上掛けを少しあげて声を潜めて答えた。
「てっきりあの人は、メイドだと思っていたわ。ドリーとしか名乗らなかったし。あたしと同じ平民出の人だと思ってたわ」
「私も知らないのだけど、何だか複雑な事情が有るみたいで、家の名は捨てたみたい。あの人は、ドリーとしか名乗らないわ」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、更に顔を上げてあたしの方に近付いてくる。完全に日照神の支配から、抜け出しているようである。随分寝たので眠れなくなっているのだろう。
お疲れ様です。




