食事会の後で 6
身体の水気をタオルで拭き取リ終えると、あたしはかごの中に用意されている下着を取ってみて、その肌触りに手を止めた。そのなめらかさは、記憶が戻ってから初めての物だった。前世では、この程度の物は触ったことがあったのだけれど。一般庶民には手に取ることの出来ない代物である。
庶民が手にできる物は、大概中古品になるのである。もっとも、あたしの家が貧乏だったからかも知れないけれど。村の衆のほとんどが、新品を買ったとは聞いたことがなかった。餓鬼の頃から、当たり前だったから全く気にもならなかったけれど。
少しばかり厚手であったけれど、今まで使っていた下着と、比べるとずっと良い物だと言うことが解る。これだけだって高い物だと思う。あたしは少しばかり怖くなった。もしかすると足抜け出来なくなるのでは無いかと、嫌な予感がする。
「貴方は此れから、お嬢様の身代わりをすることになるのだから、こういった物になれて貰わなければいけないわね。それと、貴方の腕や足にある、傷はちゃんと直しなさいね。お嬢様の身体には、こんな傷は一つも無いのだから」
ドリーさんが、あたしの腕を見詰めながら言った。
「別に腕や足を見せるようなことはないだろうから、良いと思うんだけれど」
「淑女の肌に有ってはならない傷ですよ。きちんと直した方が良いと思いますわ。奥様がこの傷を見たら、なんと思われるか」
ドリーさんが何か途方に暮れるように、天を仰ぎながら言ってきた。
「別に良いと思うけどね」
「もっとも、奥様の腕の傷と比べれば気になる物でも無いかも知れないですけれど。……奥様に似てい」
ドリーさんの言葉が、後半になるに従って小さくなってしまい、あたしには聞き取れなかった。
「へ」
「気にしなくて良いわ。明日も早いのだから、早く寝間着に着替えてしまいましょう」
まるでごまかすように、あたしを着替えさせてくる。自分で着替えることができると言っているのに、強引で困った物だと思う。
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