あまり楽しくない食事 4
あたしは内心タンドリンさんに手を合わせながら、呼び捨てにする。今のあたしは伯爵令嬢なのだから、タンドリンさんに対して、呼び捨ての方が彼女らしいと思ったのである。普段、マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、タンドリンさんを呼び捨てにしていた。少しでも似させるために、彼女の話し言葉を真似しなければ行けない。
後で謝っておかなければ行けないかな。一応は同僚になるのだけれど、御貴族石間には違いないのだから、それなりに敬っておいた方が徳だと思う。あたしは十二年間も、貴族がいる世界に生きてきた。
貴族の中には、自分の立場を勘違いしてしまっている連中が多く居ると言うことを、骨身にしみて理解しているのだ。前世のあたしの身の回りにあった、常識はこの世界には影も形もない。人権の概念自体が存在していなかった。何しろ、奴隷が貴族の資産目録に書き込まれているのだから。
あたしは皆の視線にさらされながら、トマトのスープをスプーンでそっとすくって、音を立てないように気を付けながら飲む。トマトのうまみが口いっぱいに広がる。この凝視されてる感がなければ、食事を楽しむことが出来ただろう。此れが公務って奴なのだろうけれど、あたしゃまっぴらだなと思う。
「お嬢様は実にきれにな食べ方をなさいますな」
村長さんが唐突にあたしのことを褒めてくれる。
「あら、ありがとう」
あたしはなるべく慣れている風を装いながら、微笑んで答える。上品に見える笑顔を作れているか、はなはだ疑問だと思う。このあたりは、想定問題集には書かれた居なかった。いわゆるアドリブで受け答えるしかない。
あたしの食べ方が、貴族のマナー道理になってることがびっくりである。何しろ、ファミレスでの食事程度のマナーで、食べていたからである。流石に、手束みで食べるわけにも行かないので、きちんとカトラリーを使いって食べて見せたに過ぎなかった。
人に見られながらの食事は、全然楽しくない。
お疲れ様です。




