ドッペルゲンガーの初仕事 22
あたしは緊張しながら馬車から降り立った。ホール村の広場の一角に、篝火が焚かれている。その揺らぎのある篝火の明かりが、あたりを明るく照らし出していた。あたしにとっては十分明るく感じられる。
篝火の側には、村の衆が総出で出迎えてくれていた。彼らの表情は意外に明るい。第一救援部隊の行いが、その表情を浮かばせていた。少なくとも、領主は領民を見捨てたりはしないことを、実感させているのだ。その上、伯爵令嬢が来たわけで、それだけでも安心させることが出来た。
なんと言っても、デニム家の者がやって来たなら、そのものが約束してくれたことこそが大事なのである。伯爵令嬢には、何も出来なくても自分達に顔を見せてくれるだけでも、精神的な安心を感じさせる。
「心配は要らないわ。貴方はお嬢様にそっくりだし。頭だって悪くないのだから」
と、ドリーさんが言ってくれた。
あたしはそれはそうだろうと思う。実は血のつながりのある姉妹なのだから。
ロジャー・ド・タンドリンさんが、馬車の扉を開いて、あたしをエスコートするべく左手で迎えようとしてくれる。あたしは言われているように、彼の左手に右手を乗せる。意外なほど汗ばんでいるので、少し気持ち悪と感じる。
あたしみたいな子供に対しても、令嬢に対するように恭しい対応。此れがルーチンワークになっているのかも知れない。淑女に対して、丁寧な礼儀を忘れていない。
あたしは、かなりばつが悪い。平民の娘が、低いとは言え、貴族の男性に、真面な扱いを受けているのだ。
何しろあたしは、乱暴に扱われていることになれていた。勿論、此方もあらっぽく相手する。その方が楽なのである。
お疲れ様です。




