ドッペルゲンガーの初仕事 21
そう言ってあたしは笑って見せた。
馬車を降りてからは、あたしはなんちゃって伯爵令嬢になる。これだけ暗ければ、本物か偽物か見分けが付かないだろう。育ちの悪るさは、賢者様に遊びながら、習った貴族的な振る舞いをフル動員して、マリア・ド・デニム伯爵令嬢に成り済ます。
ゲームの中の説明だと、あたしは賢者様に習った社交のスキルで、成り済ましたとされてたし。中の人に前世の記憶があるので、単なるナーラダのリコよりは上手くやれるだろう。
実際、あたしは賢者様に小さい頃から、貴族階級の者達とも話が出来るように、遊びの延長として、学ばさせて貰っていた。それが本当に通用するのか、自信が無かった。
此れまで付き合ったことが在るのは、年一でやってくる、徴税官と話したことがあるぐらいで。たいした社交のスキルを使った事が無かった。
あたしは、読み書き計算の出来る娘でしかないかった。子供のくせに書類を読むことが出来る、変わった娘と思われている。
「頑張ってね」
と、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が、椅子に仰向けに寝ながら声を掛けてくる。
彼女の顔色はだいぶ良くなってきている。声音にも随分元気が出てきたみたいである。
元気になったら、あたしに代わりをさせないで、簡単な公務なんだから、遣ったら良いのに。心の中で呟く。
「貴方には、一生袖を通すことのないドレスを着られるのだから、良い思い出になると思いますわ。中々、似合っているわね。馬子にも衣装って、よく言った物ね」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の言葉には、馬鹿にしているような声音が混じっている。
あたしは、彼女を睨み付けながら、口元だけを笑顔の形に作り上げる。ちなみに、この顔をしていると村の男の子達は、機嫌が悪いのに気付いて逃げ出す。ぼこぼこにされるから。
おつかれさまです。




