ドッペルゲンガーの初仕事 20
第二次救援部隊の車列が、ホール村に到着したのは、日が落ちて辺りが暗くなって、しばらく経ってからだった。先行の伝令によってもたらされた情報によって、村人達は篝火を付けて待っていた。近くまで来ると、村の様子からやはりそれなりに被害を受けているようだ。
家屋が倒壊している物は無いようだけれど、、床上浸水している建物があるようだ。ちなみに夜目の利くあたしだから、建物に薄らとすじが付いているのが見えた。それでもナーラダ村の惨状と比べれば、随分運が良いと言えるだろう。
それでも、小麦畑の被害は結構な物になっている。ナーラダ村とそのあたりは変わらないかも知れない。つまり、領主様の支援無くしては、冬を乗り越えられないかも知れない。確実に収穫量は激減するだろうし。最悪、身売りしなければ遣っていけない者がでるかも知れない。ナーラダ村とそれは一緒だ。
あたしは必死になって、植物紙に書かれた台本を丸暗記していた。いわゆる想定問題集的な物で、ロジャー・ド・タンドリンさんが書いてくれた台詞の束である。どこまで覚えていられるか、あまり自信はないけれど。明日になれば、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の体調が回復するだろうから、それまで無難にやり過ごさなければならない。
熟々貴族の会話は、平民的な感覚の持ち主である、あたしには解りにくい。ただ、その想定問題の内容を読む限り、御領主様は今回の嵐による被害に関して、可能な限り支援することにしているようである。ただ、どこまでの規模の支援なのか書かれていないのが、あたしには気になることだった。
「貴方にはそれほど期待していないから、そんなに必死に覚える必要は無いわよ」
と、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が言い切った。相変わらず熱が下がらない状態で、半泣きに成りながら、あたしを見詰めている。
彼女は向かい側の椅子に、力なく寝かされている。まだ体調が回復してこないのだ。
「一応お仕事だから、それなりに遣ってみせるさぁ」
お疲れ様です。




