ドッペルゲンガーの初仕事 19
お嬢様のドレスは、可愛らしいピンク色の生地で、しかも着心地は普段あたしが着ているぼろ服と比べて、着心地が良かった。たぶん新品じゃないかと思う。でも、今のあたしには似合わないと思う。
ゲームのオープニングシーンで、マリア・ド・デニム伯爵令嬢と入れ替わったナーラダのリコが着ていたドレスだった。なんかゲームが追い着いてきたみたいな気がする。真逆ゲームの強制力なんて働いていないよな。
あたしが前世の記憶を取り戻してから、七年が経っているのだけれど。ゲームの設定によく似た、異世界だと思うけれど、決して全く同じではないように思う。何しろあのゲームの物語には、他の広い空間の広がりはなかったし。庶民の生活なんか、主人公となるプレイヤーキャラクターに、小さなエピソードしか描かれていなかった。
ゲームである以上、容量には限界が在る。その限界以上の情報は、データとして載せることは出来ない。学園内の貴族階級の中だけの、小さな世界の中だけのエピソードでしか無い物語に、いくつかの複数エンディングの、アニメーションを見るためのゲームだったのだから。どうしたって、映像データに容量を食われてしまい。ストーリー展開に関係の無いところは、思いっきり削られてしまっている。
実際、ナーラダ村のことなんかオープニングシーンでしか描かれていない。悪役令嬢が、十二歳になるまで住んでいた村なのに、ほんの一寸だけ出ただけで、その後は全く出てこなかった。
「リコさん。とってもお似合いですよ」
「嘘だぁ。あたしがこんなピンク色のドレスなんか、似合うわけ無い」
実際、あたしはほとんど、胴着にズボンで過ごしているので。スカートですらはいたことが無い。股のあたりがスースーして心許ない感じがして、いたたまれなかった。良くこんな物をはいて平気で居られると思う。
「お嬢様と貴方はそっくりのだから、似合わないわけがないでしょう」
ニコニコ微笑んで、ドリーさんが言い切った。彼女の声音は確信に満ちて聞こえる。本気でそう思っているのだろう。
お疲れ様です。




