ドッペルゲンガーの初仕事 17
馬車に揺られながら、二時間が経った。既に日は暮れてしまい。
空には半月があり、地上を照らしている。第二次救援部隊の足下を照らすのは、騎兵の手にある松明の灯りと、御者の側にぶら下げられているランタンの明かりだった。
あたしの見ている世界は、他の物が見ている物とは異なっている。月の明かりさえ在れば、かなり明るく感じられる。ちなみに日本の夜は、あたしはかなり明るかったことに気付いている。
デニム家の馬車は大きくて、乗り心地が良い。こんなに揺れない馬車は初めてだ。もっとも、あたしは馬車に乗るのが今回が初めてなのだけれど。荷馬車しか知らない身にとっては、馬車は豪華なので気に入った。それでも、前世の車の乗り心地と比べものにも成らない。
馬車の中は、ランタンの明かりに照らされて、かなり明るい。ランタンの油が燃える臭いが馬車内に、充満している。あたしは、菜種油が燃焼する臭いは嫌いじゃない。
あたしは、お嬢様の濡れたタオルを取り替えた。まだ熱は下がってきていない。今日は無理をさせることは出来ないかも知れない。
「リコさん。お嬢様は、寝ていた方が良いと思いますか?」
と、ドリーさんが尋ねてくる。
「出来れば寝ていた方が良いと思うんだけどね」
「ねえ。貴方、到着したらお嬢様のかわりに、公務を遣ってくれないかしら」
「え……。ほとんどお嬢様のことを知らないんですけど。貴族らしく振る舞うことは難しいと思う」
あたしはここの中で、悲鳴を上げた。貴族の立ち振る舞いを観察した感じ、真似できるとは思うけれど。あまりやりたいとは思わない。気を付けないと悪役令嬢の立場になってしまうかも知れない。マリア・ド・デニム伯爵令嬢と同じ立場には、成りたくなかった。
「貴方はお嬢様にそっくりですし。黙ってニコニコしていれば、ほとんど会ったことも無い者には、お嬢様と貴方を見分けることが出来ないと思いますわ」
ドリーさんが、ウィンクしながら言った。
お疲れ様です。




