ドッペルゲンガーの初仕事 16
馬車の中、マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、あたしの座っている向かい側の椅子に、横になっている。未だに熱が下がりきっていないので、できる限り身体を休ませたかった。本来なら、熱が下がりきってから、移動と言うことにしたかったけれど。流石にこれ以上足止めしていると、日が暮れてしまう。彼女の意志で、隊を出発させたのである。
なるべく足下が明るいうちに、隊はホール村に到着したかった。救援物資や、村の復仇に必要な人材を連れて行くのに、安全を考えると、日が落ちてからでは危険が跳ね上がるから。
ランタンや松明の灯りを使っても、隊の移動速度を落とさなければ危険で仕方が無いから。日が落ちる前にホール村に到着してしまいたかった。その思惑はたぶん上手くはいかない。
空は少しずつ紅色の雲が、勢力を増してくる。日が暮れるのは時間の問題だろう。
日が暮れれば、少しずつでも温度が下がってくれるだろう。そうなれば、マリア・ド・デニム伯爵令嬢にとって、優しい温度になってくれる。
「リコさん。私は貴方にお礼しなければ行けないわね」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が、未だに頭が痛いのか顔を歪めながら言った。彼女の瞳は、涙で潤んでいる。
「別に良いよ。当たり前のことをしただけだから」
あたしは手を振りながら、彼女に答えた。
あたしの隣に座っている、メイドのドリーさんがにっこり微笑んでいる。不思議なのだけど、あたしがお嬢様と話しているときに、何時もニコニコと笑っている。
まるであたしとお嬢様が仲良く話していると、嬉しそうに笑っているのだ。そんなときの彼女の顔は、意外に可愛らしかった。大人のお姉さんだけれど、心底喜んでいるように見える。
ふとあたしは、アリス・ド・デニム伯爵夫人も同じような笑顔を浮かべていた事を思い出した。もしかすると、ドリーさんはマリア・ド・デニム伯爵令嬢とあたしが、姉妹だと言うことを知っているのかも知れない。真逆ね。
お疲れ様です。




