ドッペルゲンガーの初仕事 14
「うん。大人しく待ってる」
意外に素直な返事が返ってきた。内心あたしはホッとする。ナーラダのリコとして、年下の子達の面倒を見ることもあったから、それなりには出来るけど。これだけ捻くれている子の面倒を見た事は無かった。実際、リタは村の子供達の中でも浮いた存在で、ほっといたらどうなっちゃうか判らないと思ったから、一時的にでも面倒を見ることにたのだ。何しろニックが命がけで守った子なのだから。
結局あたしは、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が少しは動けるようになるまで、つきっきりで看病することになった。第二次救援部隊が動き出すまでに、太陽の位置はかなり低くなってきている。流石にまだ夕焼け空には成っていないけれども、昼時の暑さとは異なり。少しばかり過ごしやすい。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢にとっては、だいぶ条件が良くなってきた。このまま気温が順調に下がってくれば、何とかホール村に着く頃には回復してくれるかも知れない。出来れば公務の方も彼女に遣って貰いたい物である。
伯爵夫人に提示された、契約書にはマリア・ド・デニム伯爵令嬢が危険なときには、あたしが彼女の影武者をすると書いてあった。でも、彼女のことをほとんど知らない状態で、彼女の振りをするのは難しいような気がする。
暫くの間、一緒に居て観察することで、少しは似させることは出来るかも知れないけど。この程度の時間しか一緒に居なかったら、似させることなんか出来ないと思う。たとえ、顔がそっくりとは言え。生活環境は全く異なっているのだから、この程度の観察から似てくることは無いような気がする。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、ドリーさんに薄手のワンピースを着せて貰って、デニム家の紋章着きの馬車に乗り込んだ。その馬車に乗るのは、彼女とドリーさんとあたしの三人だけになった。
結局、マリア・ド・デニム伯爵令嬢は馬車の後部座席に、横になって寝ながら移動することになったのである。一緒に乗ってきた人たちは、他の馬車の方に乗るか。馬の乗れる者は予備の馬に乗って向かうことになった。
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