ドッペルゲンガーの初仕事 13
「あんたの父ちゃんは本当に心配しているんだ。良いなぁ」
と、リタがぽつりと言った。
「そうかな。結構厳しいところがあるんだけどね」
あたしは苦笑いを浮かべて、彼女に応えておく。ここまで来るのに、あたしはかなり苦労しているんだと、言葉がのど元までで掛ったけれど。辛うじてその言葉を発することなく済ませる。
いい大人が奥さん無くして、人生を棒に振るようなことを考えていたときに、何とか道を踏み外さないように、それとなく接したり甘えて見せたりして、気持ちを誘導したのはあたしだ。母ちゃんの最後のお願いだったから、何とかしてみたんだけどね。
勿論、父ちゃんが悪いことを考えなければ、伯爵令嬢に成り済ますようなことをしなくても済むから、悪役令嬢の役が回ってくることはない。だから頑張ったのだけれど。いつの間にか、あたしは父ちゃんが、好きに成ってしまっていた。父親としてね。
前世では考えられないことだったけれど、今のあたしには、この血のつながっていない父ちゃんが、可愛く感じられて仕方が無かった。父ちゃんは、死んだ母ちゃんが一番大事なのが判ると、あたしは憧れた。そんなに愛されてみたいなと思った。
未だに母ちゃんが一番大好きなのが、父ちゃんの良いところだと思っている。でも、父ちゃんと結婚するなんて絶対に口にはしない。なにしろ一番には慣れないからね。死んだ母ちゃんには適わないだろうし、あたしの中では父ちゃんは父ちゃんなのだから。
「とりあえずもう少し掛るから、近くで待っていてくれると嬉しいんだけど」
あたしを見上げてくるリタに、お願いしてみた。そう言った後に、目線を合わせるのを忘れていたことに気付く。彼女はなんと言っても、あたしよりずっと小さいのだから、そして親を亡くして本当は参っているはずなのだから、気遣いは必要なのだろう。
だから、父ちゃんは相手して遣っていたんだ。あたしはそっと、屈んで目線を合わせてみた。手遅れかも知れないけれど、遣んないで居るよりは良いだろう。
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