ドッペルゲンガーの初仕事 11
さてどうした物だろう。この子をなるべく長く休ませたいのに、うかうかしていると日が暮れてしまう。まだ時間的には余裕があるのだけれど。それでも日のあるうちに、着きたいだろうな。
実際予定では、既にホール村に到着して、アリス・ド・デニム伯爵夫人の意向を知らせて安心させたい。災害に遭った者は、自分達が決して見捨てられていないと、実感できることが必要らしい。必要な生活物資も足りなくなっているかも知れない。
あたしは政治のことは知らないけれど、前世で起こった災害の時に、ちゃんと偉いさんが、きてくれているのと、そうで無いのでは、違うのは解る。そういう処を、テレビで見たときにおばあちゃんやおじいちゃんが喜んでいる顔を覚えている。当時はそんな物なのかと思ってぼーっと見ていたから、実感無いんだけれど。
伯爵令嬢がきてくれるだけでも違うかも知れない。そう言う物なのだろう。
あたしは一応、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の影武者なので、彼女の代わりに公務を遣ることは出来る。何しろ顔だけはそっくりなのだから。聞いていることだけなら、まあ何とかごまかせるかも知れない。顔を見せて挨拶するだけなら出来る。細かい貴族らしい仕草については、今の段階では無理かも知れない。そのあたりはロジャー・ド・タンドリンさんに上手く遣って貰おう。
ゲーム上のあたしは、どうやってごまかしたのだろうか。どんな子だったか知らないのだから、似せることなんか出来るわけが無いのだから。
とは言っても、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が馬車に乗って、移動できるくらいに、回復してくれなければどうしようも出来ないのだけれど。流石に、彼女を置いて行くわけにはいかないだろう。それこそ死んじゃう。
「兎に角二時間はここを動けないと思うので、ホール村の村長さんに遅れるって伝えた方が良いかもしれない」
あたしの顔をまじまじと見詰めている、ドリーさんに言ってみた。もしかすると既に、そんなことはやっているかも知れないけれど。
「それと、冷たい水がもう少し欲しいかも知れない。父ちゃんに言って、水を汲んできて貰うと良いと思う」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が回復するためには、兎に角身体を冷やさなければいけないと思う。対処療法でしかないけれど、遣らないよりは良いと思う。
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